転職活動において、内定はひとつの区切りです。多くの人は、内定をもって転職活動を終え、他社への入社機会を放棄して内定先への入社に備え始めるでしょう。
そんな内定が取り消されるのは、転職者にとって大きな不利益です。そこで本記事では、「内定取り消しは違法ではないの?」「どのような理由なら妥当とされる?」といった疑問を解消します。
トラブルを回避するための対処法も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
内定取り消しの基礎知識
内定取り消しについて詳しく知る前に、まずは内定の概要など基礎知識を正しく理解しておきましょう。
そもそも内定とは?
内定とは、求職者と企業間で入社後の労働契約について合意した状態のことです。
労働契約の成立時点、つまり内定の確定時点は企業によって異なりますが、内定通知書や入社誓約書、内定承諾書などの授受をもって労働契約の成立とみなされることが一般的です。
内定時の労働契約は裁判例上では「始期付・解約権留保付労働契約」と理解されています。始期付・解約権留保付労働契約は、「始期(入社日)までに一定の事態が生じた場合には企業側から内定を取り消す(解約する)こともあり得る」という契約です。
内定取り消しは違法?
内定取り消しが行われる際には、正当な理由が必要です。すでに労働契約が成立している状態である内定の取り消しは法的に「解雇」と同様に扱われますが、解雇は労働契約法に基づいて下記のように規制されています。
「第16条 (解雇)
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
つまり、正当な理由がない解雇は違法にあたるということです。
ただし、解雇と異なり、内定は「解約権留保付」の労働契約であることから、取り消し理由は解雇時よりも緩やかに認められる傾向にあります。
内定取り消しが有効とされる理由
では、どのようなことが起これば「内定取り消しは妥当」と判断されるのでしょうか。ここで、代表的な理由を確認しておきましょう。
内定者が入社までに契約の前提条件や資格要件を満たせなかった
内定者が企業から事前に示されていた契約条件や資格要件を入社までに満たせない場合の内定取り消しは、有効とされる可能性が高いでしょう。
例えば、「入社後は自社の業務に専念すること」と告げられていたなら、入社日までに前職を退職しておかなければなりません。また、内定後に必須資格の受験結果が不合格と判明した場合も、内定が取り消されることがあります。
ただし、資格に関しては入社後の再受験を認めてもらえるケースもあるため、不合格が判明した時点で内定先に相談してみるとよいでしょう。
内定者の経歴に虚偽が発覚した
履歴書や本人からの申告内容に偽りがあると発覚した場合も、内定が取り消されることがあります。ただし、取り消し理由として有効と認められるのは、その内容や程度が重大である場合のみです。
「ミス」と「虚偽」の境界はあいまいですが、学歴や前職での経験、資格といった採用にあたって重視される項目では「重大な詐称」と判断されやすい傾向にあります。
内定者のケガや病気により勤務が難しくなった
内定者が内定後にケガや病気で勤務が難しい状態に陥った場合も、残念ながら「内定取り消しはやむなし」と判断されることが多いでしょう。特に即戦力として期待されている中途採用者の場合、入社日に働けなければ内定取り消しの可能性が高まります。
ただし、内定時に企業が持病や健康状態が悪化する可能性を把握できていた場合は、それを理由に企業側から内定を取り消すことはできません。
内定者が反社会的行為を犯した
内定から入社までのあいだに犯した内定者の反社会的行為が、内定取り消しの理由に挙げられるケースも少なくありません。内定者自身が犯罪を犯すことはもちろん、反社会的勢力と関わりを持つことも妥当な内定取り消し理由と判断されます。
また、近年問題視されているのは、SNSなどでの不適切な投稿です。投稿自体はプライベートの範疇のため、不適切とされる投稿のすべてが内定取り消しの対象になるわけではありませんが、企業に悪影響が生じるような投稿は内定取り消しの正当な理由になり得ます。
内定通知書や契約書に記載されている内定取消理由に該当した
企業が内定を出す場合、内定通知書や契約書に「内定取消理由」を記載して通知するのが一般的です。ここまでで紹介した理由以外の事態でも、この内定取消理由に該当する場合は「妥当な内定取り消し」と判断される可能性が高いでしょう。
企業の経営状況が悪化し、整理解雇の要件を満たした
内定者側に問題がない場合でも、内定後に企業の経営状況が悪化し、「整理解雇の4要件」を満たした場合は企業側からの内定取り消しが可能です。具体的には、以下のような内容が示されています。
【整理解雇の4要件】
- 経営上、人員削減が必要であること
- 解雇を回避するためにさまざまな努力をしたこと
- 解雇対象者が合理的基準で選ばれていること
- 双方で十分に協議したこと
このケースでは内定取り消しの決定までに協議の場を持つことが必須条件となっているため、内定者からも納得できるまで質問し、しっかりと話し合うことが重要です。
まだ正式な内定に至っていない
企業が正式な内定通知を出す前に、求人者に対して採用意向を通知することがあります。これは「内々定」と呼ばれる状態です。内定のように法的拘束力が生じないため、内々定時点での取り消しは違法にはなりません。
内定と内々定の大きな違いは、「その時点で労働契約が成立しているかどうか」です。内定通知書や契約書などを交わしていない場合は、まだ正式な内定に至っていないと考えられます。
内定取り消しが無効となる理由
原則としては、ここまでに挙げた理由以外での内定取り消しは認められません。ただし、内定取消事由に該当したとしても、内容が極めて軽微な場合は取り消しが無効と判断されることもあります。
よく問題になるのは、業務と関係がない理由による内定取り消しです。例えば、国籍や出身地といった本人の能力と関係のない事柄や、特定の宗教への入信などを理由とする取り消しは認められません。
また、内定から入社までの結婚・妊娠を理由とした内定取り消しは、男女雇用機会均等法9条に違反します(業務の遂行に影響が出る場合を除く)。
参考:婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等(第9条)|厚生労働省
内定取り消しを受けた場合にすべきこと
span class=”text-red”>もし内定取り消しを受けた場合には、どのような行動を取るべきなのでしょうか。万が一に備えて、事前にチェックしておきましょう。
企業に内定取り消しの理由を確認する
まずは、企業に内定取り消しの理由を確認しましょう。理由が正確に把握できなければ、妥当な取り消しかどうかを判断することができません。
このときのやりとりは、span class=”text-red”>口頭ではなく書面やメールを通して行うのがおすすめです。あとから言った、言わないのトラブルに発展するのを避けるためにも、形に残るやり取りの方法を選択しておきましょう。
内定取り消し後の補償の有無や内容を確認する
企業によっては、内定を取り消した人に対して補償を用意しているところがあります。span class=”text-red”>内定通知書や契約書に記載されていなくても用意があるケースもあるため、直接問い合わせてみるとよいでしょう。
また、補償がある場合でも、その内容は企業によって異なります。補償内容次第では、内定取り消し通知の受け止め方が変わる場合もあるでしょう。こちらも詳細まで問い合わせておくと安心です。
内定取り消しに納得できないときの対処法は?
内定取り消しに納得できない場合は、span class=”text-red”>「個別労働紛争解決制度」を活用するのがおすすめです。
個別労働紛争解決制度とは、厚生労働省が「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」に基づいて無料で労働相談を行う制度です。各都道府県労働局や、全国の労働基準監督署内などの379か所に設置されている総合労働相談コーナーにて、予約不要で相談できます。
参考:個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん)|厚生労働省
まとめ:内定取り消しを正しく理解し、スムーズな転職を実現しよう!
企業側から内定を取り消すためには、正当な理由が必要です。
内定取り消しが有効とされる理由は、原則、「内定取消理由」として内定通知書や契約書に記載されています。内定をもらったら、しっかりと確認しておきましょう。
もし内定取り消しを受けた場合には、その理由や取り消し後の補償内容を問い合わせ、妥当性を冷静に判断します。納得がいかない場合は、総合労働相談コーナーに相談することがスムーズな解決の近道です。
万が一に備え、本記事を定期的に見直しながらスムーズな転職の成功につなげてください。