
2026年は約40年ぶりに労働基準法が大改正される可能性が高いとして注目されています。
背景にある「働き方改革」ではこれまで段階を経てさまざまな法改正が進められています。
この記事では働き方改革や労働基準法の大改正について、主要なポイントをわかりやすく解説します!
※記事内の情報は、2025年11月時点の厚生労働省による検討段階の内容に基づいています。 実際の改正内容は未確定であり、今後の国会での審議を経て変更となる可能性があります。

大改正の全体像と働き方改革3つの柱
労働基準法が改正されている背景には、長時間労働の常態化と、それに伴う過労死や健康被害の増加という深刻な社会問題があります。
政府は2018年に働き方改革関連法を交付し、労働基準法を含む7つの法律を改正することで日本の働き方そのものを見直す転換点としました。
労働基準法改正の主要な規制(残業上限規制、有給義務化など)は、大企業では2019年4月、中小企業では2020年4月より段階的に適用が開始されています。
働き方改革の主要な3つの柱とは?
働き方改革は、主に以下の3つの柱を中心に進められています。
- 長時間労働の是正:残業時間の上限規制・罰則付きで厳格化
- 多様で柔軟な働き方の実現:フレックス制度やテレワーク導入の後押し
- 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保:同一労働同一賃金で不合理な待遇差を禁止

2026年に大改正される見通しの労働基準法についても、この3点がポイントになっています。
長時間労働を断ち切る、新時代の労働基準
最も重要視されているのが長時間労働の是正です。1日あたりの労働時間に制限を加えるのはもちろん、これまでにあった「適法だが労働者の健康を害する危険性のあるルール」を見直し、よりわかりやすく・より安全に働けるような変更がなされます。
残業時間の上限規制
原則は月45時間・年360時間が原則とされる罰則付きの規制です。単月で100時間未満であっても、休日労働を含めて複数月平均が80時間を超えると違法となります。従来のような「実質的には無制限に残業できる」といった運用は完全に封じられました。
ただし、一部の例外(新技術開発、災害復旧など)は条件付きで時間外労働および休日労働に関する上限規制が適用されません。
連続勤務の上限とインターバルの義務化
「4週間の中でいつでも4日休めばいい」というルールの現行法では、理論上24日間の連続勤務が可能になってしまっていました。改正案では、連続勤務が13日までに制限されます。
また、現在は努力義務となっている勤務間インターバル制度(終業時刻が一定の時間を過ぎた場合、翌日の始業時刻まで一定の時間数を空けること)の義務化が検討されています。
休日や労働時間の実態をよりわかりやすく
これまで曖昧であったために労働紛争の原因となりやすかった「休日・休暇に関する規定」が、より明確なルールへと見直される予定です。
多様で柔軟な働き方への対応
仕事と育児・介護の両立支援の強化、そして個々のライフスタイルに合わせた働き方を実現するための制度の見直しが行われます。
育児や介護との両立
2025年4月から段階的に施行される改正育児・介護休業法と連動して、労働基準法でも仕事と子育てや介護との両立支援が強化されます。2025年10月からは3歳以上小学校就学前の子どもを養育する労働者に対し、企業は「柔軟な働き方を実現するための措置」を講じることが義務化されました。
これは、育児と仕事の両立を支援するため、単なる努力義務から一歩進んだ重要な法改正です。企業はテレワークや新たな休暇制度など従業員が複数の選択肢から選べるよう対応を整備する必要があります。
フレックスタイム制の見直し
これまで制約のあったフレックスタイム制(始業・終業時刻を労働者が一定範囲で選択できる制度)が見直され、テレワークやフレックスが通常勤務日と柔軟に併用できるようになる見込みです。
副業が原則として容認に
厚生労働省のモデル就業規則が副業・兼業を原則容認する方針へと変更され、企業が副業を禁止するには、機密保持や長時間労働防止など合理的な理由が必要となりました。
この変更は、多様な働き方を促進しつつ、企業に労働時間を通算管理する責任を負わせることで、労働者の健康確保と勤務時間外の活動の自由を両立させます。結果として、労働者にとって副業が認められやすい環境が法的に整備されました。

雇用形態による不合理な待遇差の禁止(同一労働同一賃金)
同じ企業内で働く正社員と非正規社員(パート、有期雇用社員、派遣社員)の間で、仕事の内容や責任などの範囲が同等であるにもかかわらず、雇用形態の違いのみを理由として不当な待遇差を設けることを禁じています。
同一労働同一賃金とは
「同一労働」とは、業務内容や責任の程度および人材活用の仕組みが同等であること、「公正な待遇」とは雇用形態に関わらず合理的な理由なく差を設けてはならないことを意味します。
完全に同額を支払うことだけが目的ではなく、差を設ける場合はその理由を明確に説明できることが企業に求められます。
待遇差が「不合理」と判断される具体例と裁判所の判断
待遇差の判断は、基本給だけでなく、賞与、各種手当、福利厚生といったすべての待遇が見直しの対象となります。
2020年の最高裁判例では、待遇差の合理性について明確な判断が示されました。特に、業務内容と密接に関連しない待遇(生活や健康に関わるもの)について、非正規社員への不支給は「不合理」と判断される傾向にあります。
判例では、通勤手当・食堂の利用・病気休暇など多くの企業が長らく慣行としてきた待遇差が不合理とされました。形式的に「正社員であること」を理由にした待遇差は通用せず、待遇差を設ける客観的な理由が企業側に求められます。
まとめ
今回ご紹介した他にも、これまで労働基準法の対象外であったフリーランスやアプリ経由で働く配達員などプラットフォームワーカーを保護するため、労働者の定義について議論されています。
また海外ではすでに導入されている「つながらない権利(勤務時間外の業務連絡に応じなくても、不利益を受けない権利)」が日本でも導入に向けた議論が進んでいます。
旧来の労働慣行を改め、新しい時代の働き方を確立しようというのが今回の労働基準法の大改正です。
この法改正内容を単なる罰則回避として捉えるのではなく、持続可能な成長と優秀な人材の採用強化につながる「攻めの働き方改革」へと移行する機会と考えてみてはいかがでしょうか。