厚生労働省がガイドラインを発表したこともあり、副業・兼業を解禁する動きが大手企業を中心に広がっています。本コラムでは副業・兼業人材を自社に受け入れることでどのようなメリットが得られるのか、主に企業側の視点からお伝えします!
1)副業・兼業人材とは?
副業・兼業人材とは、主に自分の生計を立てるための仕事を持ちつつ、それとは別にビジネスとして自分の保有する経験、能力、スキルを資本して仕事をする人材のことです。フリーランスとしての働き方を含む場合もあります。
こうした複数の仕事を通じてキャリアを構築する方法をパラレルキャリアと呼びます。このキャリア形成のあり方は、変化の激しい時代に労働者が自らの市場価値をあげつつ一社では得られない経験、人脈を作る意味で非常に効果的な方法として注目されています。
2)副業・兼業人材は、なぜ今注目されているの?企業側の3つのメリット
①教育の必要なく即戦力人材を活用できる
企業側の視点では、多様な雇用の在り方が確立されてくる中で、「必要な時だけ必要な人材を使う」というメリットが強調されてきました。
今までは自社で採用し教育していくことが人材育成の一般的な在り方でしたが、時代の変化のスピードについていくためには「今、この瞬間に必要なスキル」というものも存在します。そうした即時対応が可能なスキルを自社で養成するのではなく、外部から人材を登用することでカバーしようとする動きが生まれました。この選択肢は、そのような能力を持つ人材を正規雇用をする方法だけではありません。プロジェクト単位での雇用や業務委託という形態を踏まえ、副業・兼業人材の活用が検討されてきたのです。
➁企業の採用難状況に対し、比較的容易に人材獲得が可能である
また、企業側の視点では正規雇用で「採用」することが現在、前例がないほど難しいという現状があります。
日本は現在、労働者の絶対数が減少しているために空前の売り手市場になっています。厚生労働省の発表によると、令和5年4月の有効求人倍率は1.32倍に上りました。(参照:一般職業紹介状況(令和5年4月分)について|厚生労働省)。つまり、1人に対して1.3人分の仕事がある状態であり、この状況はここ1年以上継続しています。したがって、立地条件や給与待遇などの面で不足があると見られた企業はそもそも応募すらしてもらえない状況になっているのです。
コロナ禍やビジネス潮流の変化によって東三河エリアの企業もまた苦しい状況にあるところは少なくありません。そのような状況を打破するためにも、すでに一定のスキルや能力を持つ人材にスポット的に助けてもらう、という雇用の在り方が注目されています。その対象として、副業・兼業人材が注目を集めています。
副業・兼業人材は一般的にすでに生活のための仕事を持っていますので、拘束時間・実働時間が短くなる副業・兼業としての仕事ではその分報酬を押さえることが可能です。また、報酬よりも経験ややりがいを求めているケースもあり、裁量権の多い案件も人気です。
③企業に新しい風を入れ、成長するための土台を作る
企業の中で人材定着が進むと、それがために発想が固定化されたり、新しいことにチャレンジすることに躊躇うことも増えてきます。それは保守化につながるため、新規事業や事業改革、コスト構造の見直しなどに対する抵抗勢力になりがちです。それを防ぐ意味で、企業には一定の入職・退職などの流動性が担保されることが望ましいと言えます。
しかし前述の通り、人材獲得が難しくなっている現在、副業・兼業人材など「会社の外の人」と共に働くことで「会社の中の人」にも新しい視点が生まれたり、気づきを得るなどの効果が見込めます。労働者個人にとっても「こんなやり方があるのか」「うちの会社の常識は外では通用しないのかも」といった刺激が得られます。そのように変革へのマインドをもつことによって会社も労働者も成長するための土壌を作ることが出来るのです。
3)中小企業による副業・兼業人材の活用事例
①後継者のために経営計画策定・新規事業開発した製造業の取組み
長野県にある有限会社大沼製作所では主力商品のルーティン受注が停滞しているものの、日々の業務に追われて経営計画の策定が未着手の状況でした。また、後継者が入職しており、現在の経営状況のまま事業を引き継がせるのではなく改革をする必要性を考えていました。そのため、経営計画策定のために1名、新規事業開発のために7名の副業・兼業者とまずはプロボノ(ボランティア)ベースで契約し、プロジェクトをスタートさせました。副業・兼業者たちとの議論を通し「なぜこの会社を存続させたいのか」といったビジョンの可視化がなされ、緊急度の高い経営計画の策定をすすめながら時間をかけて新規事業をともに作り上げていっています(参照:中小企業への「兼業・副業人材」活用推進におけるヒント集p32‐33|関東経済産業局)。
➁ECサイトの構築と自社の魅力を追求したプロモーションを展開した精肉店の取組み
愛知県豊田市に店舗を構える内藤精肉店はコロナ禍で減少した顧客層への新たなアプローチ方法の模索と検証のため、はじめて副業・兼業者を2名受け入れました。はじめはどのように副業・兼業者と対話してよいか分からなかったという同社ですが、意見交換を重ねて言語化貸し切れていなかった「自社の魅力を伝える」方向性でプロジェクトゴールを設定。ECサイトの開設、新サービスのスタート、プロモーションツールを4か月で実施しました。スピード感ある展開で事業をすすめつつ、契約期間の満了によりプロジェクトが終了したあとも雇用の問題が生じないため、なかなか人を雇えない中小企業にはよい方法だと感じているそうです(参照:お客様のニーズに寄り添い続ける精肉店のチャレンジ。自社の魅力を言語化し、新たなサービスを生み出す。|ふるさと兼業)。
4)副業・兼業人材を活用して企業に新しい活力を
企業にとって採用は非常にコストがかかります。また、採用してしまったあとで「仕事が合わない」という場合でも解雇することはできません。だからこそ、副業・兼業人材とともに新しいビジネスを作り上げたり、既存の業務フローを見直すことは非常に有効な打ち手だと言えます。
なお、2023年7月より、中部経済産業局の副業・兼業人材活用プロジェクトが始まります。
こちらは「副業・兼業人材をお試しで活用してみたい」企業に向けて、人材と企業双方にコーディネーターがついて伴走支援をするというものです。東三河エリアでは一般社団法人移住者人材バンクがコーディネーターを担当します。
「全国の意欲的な人材と共に進める中小企業の経営革新プログラム2023」対象企業募集のご案内
https://chubu-jinzai.meti.go.jp/event/online/p6295/
「何ができるかイメージができない…」という企業へはこちらのセミナーからのご参加がお勧めです。
【中部地域(愛知・岐阜・三重・石川・富山)中小企業対象企業|オンラインセミナー】副業・兼業等外部人材の活用普及促進セミナー
https://chubu-jinzai.meti.go.jp/event/online/p6259/
副業・兼業人材と良い関係を作りつつ、自社のビジネスを活性化していきましょう!