TOYOHASHI AGRI MEETUP

豊橋市は昨年度から「未来の農をつくる」をコンセプトに地域農業関係者×農業系スタートアップによる協働プロジェクト TOYOHASHI AGRI MEETUP を行っています。

生産者と農業系スタートアップの交流会や地域の農業が抱える課題を深掘りするプログラムなどを経てコンテストを行い、選ばれた企業は豊橋市内で実証実験を行います。

詳しくははこちらから▽
https://toyohashi-agri-meetup.jp/

今年度も新しいプログラムがスタートし、2023年6月27日には第1回アグリテック交流会を開催。北は北海道・南は沖縄から計9社の農業系スタートアップが豊橋へ集まり、ピッチと交流会が行われました。

 TOYOHASHI AGRI MEETUP_交流会

どんな企業が集まったのか、会場はどんな様子だったのかなどレポートします!

グッドデザイン賞を受賞!会場はイノチオホールディングス株式会社

第1回アグリテック交流会の会場は同事業のサポーター企業でもあるイノチオホールディングス株式会社の本社。「次世代への農業の継承」をコンセプトに「かっこいい農業」を実現させようという建築意図に対して高い評価を得て2020年度グッドデザイン賞を受賞しました。

 TOYOHASHI AGRI MEETUP_イノチオホールディングス株式会社

イノチオホールディングス株式会社自身も農業用システムや農業用ドローンなど農業×先端技術による “スマート農業” を推進している企業です。

 TOYOHASHI AGRI MEETUP_農業用ドローン

第1回アグリテック交流会の参加者は豊橋近隣エリアの農家、JA、農業関係の事業会社、金融機関や自治体関係者など。新しい農業のあり方や、自分たちの抱える農業課題の解決に興味ある約80人(オンライン合わせて約120人)が集まり、開始前から会場は熱気に包まれていました。

本イベントはオンラインからも参加可能で、ZOOMを通して各社のピッチが見られました。

運営側も本気のメンバー!オープニング

主催の豊橋市役所 産業部 地域イノベーション推進室長の鈴木豪氏による開会挨拶から始まり、イノチオホールディングスを代表してイノチオみらい株式会社 代表取締役の大門弘明氏からご挨拶がありました。

イノチオみらい株式会社は直営農場で日本初の機能性表示食品GABAトマトと夏越栽培手法を開発し、周年出荷を実現。環境保全やフードロス対策などの取組が評価され2022年度の「未来につながる持続可能な農業推進コンクール」GAP部門で農産局長賞を受賞しています。

 TOYOHASHI AGRI MEETUP_開会挨拶

地域イノベーション推進室の室井崇広氏からはTOYOHASHI AGRI MEETUPの年間を通した取組みなどを紹介。

 TOYOHASHI AGRI MEETUP_取組み

昨年度は生産者とスタートアップ企業が直接交流できる機会が少なかったという反省から、今年度は本イベントのような交流会を増やしているそうです。

 TOYOHASHI AGRI MEETUP_吉本興業株式会社

続いて紹介されたのは吉本興業株式会社による「あなたの街に住みますプロジェクト」で4月から豊橋市に移住したASANAのお2人。

久保さん(画像左)の実家は市内の農家で、刈谷市出身のナミトさん(画像右)との出会いは愛知県立農業大学。移住した現在は市内で農作業も始めており、農産物の販売に向けて奮闘中という”農業系”お笑いコンビです。

 TOYOHASHI AGRI MEETUP_デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社

最後に事務局のデロイトトーマツベンチャーサポート株式会社から青砥氏がイノベーション界における農業トレンドや昨年度のマッチング事例などを紹介。青砥氏は茨城県で約200年続いた農家の血筋で、現在も農業関連事業に多く携わっています。

大きなイベントの開会挨拶というと形式的なものも多いですが、TOYOHASHI AGRI MEETUPは違います。運営サイドの方々もそれぞれが農業に対する熱い思いやバックボーン、専門性を持ちプロジェクト全体へどれだけ本気で携わっているかを肌で感じることができました。

いよいよアグリテック各社のピッチがスタート!

アグリテックとは農業(Agriculture)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語。

先進的なテクノロジーを用い農業課題解決に取り組むアグリテックは日本国内だけでも2025年の市場規模が3,885億円になると言われています。(参考:マイナビ農業

そんなアグリテック関連のスタートアップ/ベンチャー企業が全国から豊橋へ! それぞれ熱量の高いピッチと質疑応答が行われました。

 TOYOHASHI AGRI MEETUP_アグリテック各社

AI×衛星画像解析で土壌特性を推定 サグリ株式会社

兵庫県発のスタートアップ企業であるサグリ株式会社からは代表取締役 CEO の坪井俊輔氏が登壇。衛星データとAIを使って土壌の特性などを見える化し、効率的な農業を実現するアプリケーション「Sagri」を提供しています。

 TOYOHASHI AGRI MEETUP_サグリ株式会社

また農地から排出される温室効果ガスの削減量などを評価しカーボンクレジット化・販売する仕組みで脱炭素社会の実現を目指しています。世界に比べて日本はまだカーボンクレジットの取組が遅れており、会場に集まった方々と一緒にぜひ取り組んでいきたいというメッセージを語っていました。

100%オーガニックの超吸水性ポリマー EF Polymer株式会社

沖縄県で自然由来の超吸⽔性ポリマー「EFポリマー(エコフレンドリー・ポリマー)」を開発するEF Polymer株式会社からはCOO(最高執行責任者)の下地邦拓氏が登壇。EFポリマーは果物の皮などの作物残渣を原材料とし、土の保水力・保肥力を高めることで栽培コストを下げるだけでなく収穫量も増加し収益アップが期待できます。

 TOYOHASHI AGRI MEETUP_EF Polymer株式会社

質疑応答では生産者から面積に対するEFポリマーの必要量に驚きの声も。種や肥料と一緒に土へ入れることで植え付け〜収穫まで効果は持続し、コストパフォーマンスが高いことも特徴のひとつです。

最短1年のスピーディ育種開発 株式会社クォンタムフラワーズ&フーズ

茨城県で種子などに中性子線を照射し突然変異を誘発する「中性子線育種技術」と、それに使用する「中性子線照射装置」を開発する株式会社クォンタムフラワーズ&フーズからは代表取締役 CEO&CTOの菊池伯夫氏が登壇。中性子線による品種改良を世界で初めて社会実装へ進めました。

 TOYOHASHI AGRI MEETUP_株式会社クォンタムフラワーズ&フーズ

気候変動が深刻化する中、例えば猛暑日が年々増え耐暑性のある品種が求められています。従来の手法による品種改良では間に合わない…だからこそ今、この新技術による飛躍的なスピードアップによって「農業にブレイクスルーを起こしたい」と語っていました。

簡単ステップで一歩先ゆく農業経営を実現 株式会社はれると

豊橋市で施設園芸の作業記録・分析のクラウドサービス「agri-board」を提供する株式会社はれるとからは取締役CTOの渡邉裕太氏が登壇。施設園芸の労務管理・目標管理から「ムリ」「ムラ」「ムダ」を削減し、作業進捗を可視化、生産性改善に向けた新しいアプローチを提供するプロダクトです。

 TOYOHASHI AGRI MEETUP_株式会社はれると

質疑応答では具体的どのような改善が見られたかという質問があり、管理業務にかかっていた1200時間が削減した事例や小規模農家でも作業効率化によって時給が上昇、データもとに話すことでコミュニケーションも活発になったという事例が紹介されました。

高精度な自律走行が可能なロボット開発 株式会社レグミン

埼玉県で農作業ロボット・IoTデバイスの研究開発などを行う株式会社レグミンからは代表取締役の野毛慶弘氏が登壇。農作業ロボット・IoT機器の研究開発を行うとともに、自律走行型農業ロボットによる農薬散布サービスを展開しています。

 TOYOHASHI AGRI MEETUP_株式会社レグミン

会場ではロボットが実際に動く様子の動画や自動化案件の具体例なども紹介。質疑応答ではドローンでの農薬散布と比べての優位性や農薬散布だけでなく除草にも使えるのかといった質問が生産者からされ、開発中の取組も伺うことができました。

累計185万ダウンロードのアプリを開発 株式会社農業情報設計社

北海道でGPSを活用したシンプル・低コストなトラクター運転支援アプリ「AgriBus-NAVI」を開発する株式会社農業情報設計からはCEOの濱田安之氏が登壇。従来はオペレーターの熟練度に依存していたトラクターの運転精度をGPS技術によって解決、後付け可能で小型の農業機械にも使えるのが特徴です。

 TOYOHASHI AGRI MEETUP_株式会社農業情報設計社

アプリは「まるで食洗機のように、一度使ったら無い生活が考えられない」使い心地だそう。これまで累計185万ダウンロードされ、その内の99%は海外。肥料散布の効率化などで地球環境にも貢献が期待されています。

GreenDrop(起業予定)

これから起業予定のGreenDropからは事業化担当の瀬戸山幸大郎氏が登壇。人間でいう健康診断のように、植物の生体分子を検知するマーカーによって生産現場での植物診断を行う技術の開発を行っています。

 TOYOHASHI AGRI MEETUP_GreenDrop

植物に変化が起こる一番のトリガーは環境。外気温の高低や肥料の過不足などを分析したデータを見える化し、それだけでなく診断アルゴリズムを活用して独自の栽培レシピを作成。これによって病害虫の予防や施肥の適正化、高効率な生産による収量アップ、コスト削減が期待されています。

価格交渉力をあげる栽培管理アプリを開発 株式会社INGEN

千葉県で栽培管理アプリを起点に、収量・品質・経営の安定をワンストップで支援するサービスを展開する株式会社INGENからは代表取締役の櫻井杏子氏が登壇。同社は全メンバーが農業従事者。「農業が稼げないのはなぜか?」を考え、生産者の価格交渉力が無いことによる単価の低さが問題であると着目しました。

 TOYOHASHI AGRI MEETUP_株式会社INGEN

アプリは誰でも簡単に操作できるUI設計で栽培計画から実際の作業タスクまでを管理。天候によってスケジュールが左右される農作業をシステムによる自動調整で効率化するなどの機能を有します。

特定の遺伝子をピンポイント改良 グランドグリーン株式会社

ゲノム編集技術の開発で名古屋大学発ベンチャー企業のグランドグリーン株式会社からは取締役CFOの岩田圭祐氏が登壇。特定の遺伝子をピンポイントで改良することが可能な独自のゲノム編集技術によるスピーディな種苗開発の受託や開発したオリジナル品種の種子販売やプロダクトアウトも行っています。

 TOYOHASHI AGRI MEETUP_グランドグリーン株式会社

従来の交配方法との優位性や遺伝子組み換え技術の違いが解説され、会場からは別の登壇者の技術との違いも質問されました。同社は2021年に豊橋第1研究農場を開設し、エゴマやレタス等の試験品目を栽培しています。

気になる登壇者と直接交流できるチャンス

ピッチ終了後は会場レイアウトを変更しての交流会がスタート。参加者が気になるスタートアップと名刺交換したり直接話せる貴重な機会です。

 TOYOHASHI AGRI MEETUP_直接交流

参加者の方からお話を聞くと、「今日は勉強のつもりで来た」という方から「普段からアグリテックをよく調べている」方までさまざま。

ある生産者の方は「アグリテック関連の情報はいろいろと耳に入るけど、実際の現場の状況とは解離してしまっていることも多い。そんな中で今日は生産者にとって嬉しい内容も聞けた」とお話されていました。

 TOYOHASHI AGRI MEETUP_直接交流2

登壇者の皆さんはピッチが終わり緊張も解けたのか、生き生きとした表情でたくさんの方々と交流されていました。

 TOYOHASHI AGRI MEETUP_登壇者

まとめ

消費者も生産者も喜ばせたい、アカデミックな先端技術でありながらマーケットインの視点を大切にしている、など企業の公式サイトやニュースを読むだけでは伝わらない想いを直接対面で感じられたのが印象的でした。

昨年度から始まったTOYOHASHI AGRI MEETUP。昨年度に採択された企業は、引き続きアイデア実現に向けて市が伴走支援しながら実証実験が行われています。

今年度のキックオフイベントとも言える今回のイベントでは、参加者からも登壇者からも高い熱量が伝わってきました。

TOYOHASHI AGRI MEETUPでは、続いて8月に農業者等がスタートアップとの協働開発に向けたマインドセットを行うととともに、アグリテックコンテストで解決策を公募する農業課題を明確化するマッチングプログラムが開催される予定です。

詳しくはこちらから▽
https://toyohashi-agri-meetup.jp/program

これからTOYOHASHI AGRI MEETUPを通じてどんな出会いがあり、新しいチャレンジが生み出されていくのか楽しみです!