TOYOHASHI AGRI MEETUP「未来の農のつどい2026」

豊橋市は、「未来の農をつくる」をテーマに、農業イノベーション創出を目指すプロジェクト「TOYOHASHI AGRI MEETUP(豊橋アグリミートアップ)」を展開しています。本取組の一環として、全国のスタートアップから農業課題の解決策を募集し、市内の農業者等とマッチングし、新製品・サービスの開発を目指す「アグリテックコンテスト」を実施しています。
2026年9月4日には、「未来の農のつどい 2026」と題し、農業関係者が先進事例を知り、自らの課題や協業ニーズを整理し、農業系スタートアップとの効果的な共創を生み出すことを目的として、市内農業関係者を対象としたイベントがMUSASHi Innovation Lab CLUEで開催されました。

当日は、農産物の生産からブランドづくり、観光、流通までを手がけるロックファーム京都株式会社 代表取締役の村田翔一氏が登壇。また、デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社 シニアマネジャーの青砥優太郎氏による講演と、参加者が豊橋の農業の未来を考えるワークショップも行われました。

本記事では、講演とワークショップの内容から、これからの農業経営と豊橋の農業の可能性を紹介します。

地域の農業課題を、新しい製品・サービスの出発点に

イベント冒頭では、豊橋市 産業部 地域イノベーション推進室から「TOYOHASHI AGRI MEETUP」の事業説明が行われました。

同事業では、地域の農業関係者が抱える課題を整理し、全国のアグリテック企業と地域の生産者とのマッチングを通して、課題の具体化と解決策の検討を進めています。その後、アグリテックコンテストにおいて企業からの提案を募り、採択された提案については、実証実験や製品導入までを支援しています。
本事業は2026年度で5年目を迎え、これまでにも製品化や地域への導入につながった事例が生まれています。

今回の「未来の農のつどい」は、地域の生産者が抱える課題を整理する場として開催されました。ここで挙がった課題は、今後のアグリテックコンテストの募集テーマなどに活用され、全国の企業から解決策を募る予定です。

TOYOHASHI AGRI MEETUP_豊橋市

“今までにないブランドを創る”農業経営と未来への挑戦

第一部の講演には、京都府久御山町を拠点に農業を展開するロックファーム京都株式会社 代表取締役の村田翔一氏が登壇しました。

同社は、農業には単に食を支えるだけでなく、人の心を震わせ、情熱をかき立て、世界の見え方を変える力があると考え、「農業で、世界をロックする。」をパーパスに掲げています。
九条ネギをはじめ、白いとうもろこし「京都舞コーン」、黒枝豆、いちごブランド「あざといちご」などを生産。農産物をつくるだけでなく、加工・販売、商品企画、ブランドづくり、収穫体験まで手がけ、農業の可能性を広げています。

TOYOHASHI AGRI MEETUP_ロックファーム1

消防士から農業経営者へ

村田氏は約10年間、消防士として勤務する傍ら、創業の数年前から休日を利用して、仲間と農業に取り組んでいました。
転機となったのは、全国の農業経営者が集まる「次世代農業サミット」への参加でした。

地元では「農業は儲からない」といった後ろ向きな話を耳にすることが多かった一方、サミットでは全国の農業経営者が、将来への希望や大きな目標を語っていました。その豪快な姿に刺激を受け、村田氏は参加から約2カ月後に消防士を退職し、農業経営者として独立しました。

農地や販路の制約を、成長の仕組みに変える

ロックファーム京都が拠点を置く地域では農地の確保が難しく、圃場も各地に分散しています。また、創業当初は九条ネギの出荷先が一社に集中しており、販売面でも大きなリスクを抱えていました。

そこで、限られた農地から得られる収益を高めるため、単収の向上に取り組みました。さらに生産拠点を分散し、農地不足や災害によるリスクを軽減。2019年には販売会社「株式会社SAMURAI FARMERS」を設立しました。

自社だけで生産面積を広げるのではなく、地域の生産者と連携して出荷量をまとめることで、販売量と安定供給を確保。こうした取り組みにより、創業から8期目には販売会社の売上高は約9億円まで拡大しました。

村田氏は、小規模な生産者が多いという地域の弱みも、生産者同士が連携して販売量と安定供給力を高めることで、強みに変えられると説明しました。

TOYOHASHI AGRI MEETUP_ロックファーム2

「京都舞コーン」をブランドとして育てる

ロックファーム京都を代表する「京都舞コーン」は、九条ネギの連作障害を避けるために栽培を始めたホワイトコーンが原点でした。

村田氏は、ホワイトコーンを販売するだけでは、他の生産者が同じ品種をつくった際に価格競争になると考え、「京都舞コーン」とブランド化することで、商品そのものに価値を持たせる取り組みを始めます。

当初はスーパーマーケットなどへの流通を試みましたが、十分な価格で販売できず、品質を保ったまま届けることにも課題がありました。そこで翌年から直売へと切り替え、自社前にテントを立てて販売を開始。
その後、テレビで紹介されたことをきっかけに多くの来場者が訪れるようになりました。

一方で、販売価格が生産・販売コストに見合っていないことも判明。原価を見直して価格を改定し、継続的に利益を生み出せる事業へと改善しました。

一度の話題で終わらせず、農場のファンをつくる

京都舞コーンが注目を集める一方、周囲からは「一発屋で終わる」と言われることもあったといいます。

そこで同社は、直売だけでなく、収穫体験などを実施。商品を購入してもらうだけでなく、農場を訪れ、そこでしか得られない体験を通じてファンになってもらう取り組みを重ねてきました。

2026年のとうもろこし収穫体験には、約50日間でおよそ5,000人が来場。収穫後に農産物を追加購入する人も多く、直売・体験事業は収益を支える柱の一つになりつつあるといいます。

農場を「食べる・遊ぶ・癒やされる」場所へ

ロックファーム京都が今後、力を入れたいと考えていることの一つが、農業と観光を組み合わせたアグリツーリズムです。

農場は農産物を生産するだけでなく、食を楽しみ、遊び、日常から離れて癒やされる場所にもなります。村田氏は、農業が持つさまざまな可能性を新たなブランド価値につなげ、農場の世界観をさらに磨いていきたいと展望を語りました。

失敗の乗り越え方と今後の方針

質疑応答では、これまでの失敗をどのように事業改善へつなげてきたのか、今後どの事業を伸ばしていくのかといった質問が寄せられました。

村田氏は、取り組みが思うような結果につながらなかったときも、「やらなければよかった」で終わらせず、原因を振り返って次の打ち手へつなげてきたと説明しました。また、従業員に責任ある役割を任せることが、人材と事業の成長につながったと振り返りました。

今後は、生産・流通事業によって事業規模と安定した雇用を支える一方、直売・体験事業によってブランド価値と収益性を高めていく方針だと回答。両輪で事業を成長させていく考えを示しました。

TOYOHASHI AGRI MEETUP_ロックファーム3

次世代アグリイノベーションからひも解く、豊橋市の農業の未来

続いて、デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社 シニアマネジャーの青砥優太郎氏が、国内外のフード・アグリ分野の動向や、農業法人への調査・訪問を通じて見えてきた課題を紹介しました。

世界では、気候変動や人口増加、サプライチェーンの脆弱化、人手不足などを背景に、フード・アグリ分野への投資が進んでいます。アグリ分野では、暑さなどの環境変化に強い品種を生み出す育種・バイオ分野の研究開発が注目される一方、フード分野では、無人化や販売の効率化につながる技術に注目が集まっているといいます。

また、青砥氏が全国の農業法人を訪問する中で、経営者が特に重視していたのが、次の4つの視点です。

  1. 人・経営構造:誰が作業と農地を担うか
  2. 気候・生産環境:安定生産をどう守るか
  3. 技術・働き方:人が担う仕事をどう変えるか
  4. 市場・収益構造:作った価値をどう収入へ変えるか

農業経営は、規模を拡大するだけで安定するわけではありません。
収益性の高い農業法人では、データを活用して収量やコストを把握し、人材育成や作業改善につなげるとともに、経営状況を週次や月次で継続的に確認しているといいます。

TOYOHASHI AGRI MEETUP_デロイト トーマツ ベンチャーサポート

アグリテック導入では「何を解決するか」を明確に

アグリテック企業から提案を受ける際には、目の前の製品やサービスが「自社のどの課題を解決するものなのか」を見極めることが重要だと説明しました。

優れた技術であっても、自社の品目や栽培環境、経営条件に適しているとは限りません。導入効果を数字で測れるか、投資を回収できるか、長期的に使えるかまで確認する必要があります。

一方、生産者が現場の条件や使いにくい点を企業に伝えることは、製品やサービスの改善にもつながります。生産者と企業がそれぞれの強みを持ち寄り、現場の課題を起点に解決策を育てていくことが、アグリテックの地域での社会実装を後押しします。

TOYOHASHI AGRI MEETUP_デロイト トーマツ ベンチャーサポート2

豊橋の「未来の農」を考えるワークショップ

講演後は、参加者がワークシートを使い、自身の農業経営や地域の未来について考えるワークショップが行われました。

参加者は、次の3つの問いに沿って考えを整理し、グループで意見を共有しました。

  • 5年後にも残したい強みと、実現したい姿
  • 5年後の理想と現在のギャップ
  • 原因を掘り下げ、優先して取り組む課題を選ぶ

村田氏の事例では、今後の事業拡大に向けた課題として「再現性」と「人材育成」が挙げられました。

これまで村田氏自身の経験や感覚をもとに行ってきた判断を、組織の成長に合わせて社員へ引き継いでいくためには、その判断に至った根拠を共有できる状態にすることが求められます。

そこで同社では、時期ごとの収量や販売価格など、村田氏の経験として蓄積されてきた情報を一つずつ数値化。クラウドツールやAIも活用しながら、判断の根拠を共有できる仕組みづくりを進めています。
また、まず経営や栽培に関する意思決定を見える化し、その上で現場の省力化・自動化へ進むという優先順位も示されました。

参加者はこうした事例を参考にしながら、自分たちが5年後にも残したい強みや、変えていく必要のあるもの、自分たちだけでは解決が難しい課題を整理しました。

TOYOHASHI AGRI MEETUP_ワークショップ

講演とワークから見えてきた「豊橋の農業の可能性」

今回の講演とワークショップを通じて見えてきたのは、農業の未来をつくるためには、新しい技術を導入するだけでなく、自分たちが持つ強みと、解決すべき課題を明確にすることの重要性です。

ロックファーム京都の事例では、農地不足や販路の集中といった制約を、生産者との連携や販売体制の構築、ブランドづくり、直売・体験事業などによって新たな仕組みに変えていました。

全国有数の農業地域である豊橋にも、多様な農産物と、それを支える生産者の技術があります。そこに、生産者の経験、企業が持つ技術、異業種からの視点を掛け合わせることで、豊橋ならではの新しい農業の形が生まれる可能性があります。

今回の「未来の農のつどい」は、それぞれが目指す農業の姿と現在抱えている課題を整理し、地域内外の誰と、どのように課題を解決していくのかを考える機会となりました。
また、参加者同士の意見交換も活発に行われ、「普段聞くことがない農業関係者の抱える課題を聞くことができて参考になった」といった声も聞かれました。

TOYOHASHI AGRI MEETUP_集合写真

今後のTOYOHASHI AGRI MEETUP

今後は、全国のアグリテック企業から農業現場の課題解決につながる提案を募る「アグリテックコンテスト」をはじめ、地域の農業関係者とアグリテック企業の交流会などが予定されています。

地域の生産者や農業関係者とアグリテック企業との共創を通じて、豊橋の農業にどのような新しい製品やサービスが生まれるのか。今後の展開が注目されます。

令和8年度 アグリテックコンテスト

募集期間:2026年9月21日(月)16時~10月23日(金)17時

昨年度は65件の提案がエントリーしました。今年度も、農業現場の課題解決や新たな価値の創出につながる多くの提案が期待されます。

▷令和8年度 アグリテックコンテスト(一般部門)

▷TOYOHASHI AGRI MEETUP公式サイト