「正社員」といえばフルタイム勤務が求められるものと認識されてきましたが、近年は、多様な人材を活用するためにさまざまな働き方を導入する企業が増えています。その一例に挙げられるのが、「短時間正社員」です。
本記事では、まだ耳にする機会が少ない短時間正社員の基本知識や、メリット・デメリットなどを解説します。併せて短時間職員の求人の探し方も紹介しますので、ぜひ就職・転職活動の参考にしてください。
短時間正社員とは?
短時間正社員とは、「短時間正社員制度」を利用して短時間勤務する正規社員のことです。一般的なフルタイム正社員の所定労働時間が1週間あたりで40時間程度であるのに対し、短時間正社員では「1日4時間で週5日勤務」や「1日8時間で週3日勤務」というように、1週間あたりの労働時間が短時間になるよう設定されます。
短時間正社員制度は、育児や介護などとの両立や、ワーク・ライフ・バランスの充実といった多様な働き方を求める声を受けて誕生しました。この制度が広まればより多くの人材の活用が見込めることから、少子高齢化による労働力不足の解消にもつながると期待されています。
短時間正社員の定義
厚生労働省による短時間正社員の定義は、以下のとおりです。
労働契約の期間と賃金の算定方法がフルタイムの正社員と同じであることがポイントです。
短時間正社員制度の対象者と適用期間
短時間正社員制度の対象となるのは、フルタイム正社員と同等、もしくはそれ以上の意欲や能力があるものの、なんらかの事情により長時間働くことが難しい人材です。そして、同制度の適用期間(そもそも適応期間を設定するかどうかという点も含む)や、適用期間後の対応(フルタイム勤務に移行するのか、短時間勤務を継続するか)についての判断は、各企業に委ねられています。
短時間正社員の労働条件
続いて、短時間正職員の労働条件を確認しておきましょう。ここでは、「基本給・賞与(ボーナス)・退職金」「諸手当」「有給休暇」「人事評価」の4つの側面から詳しく解説します。
基本給・賞与(ボーナス)・退職金
短時間正社員の基本給および賞与(ボーナス)、退職金は、フルタイム正社員と同じ方法で算出されます。つまり、1時間当たりの基本給の単価はフルタイム正社員と同額であるものの、支給額は労働時間に応じて変動するということです
賞与(ボーナス)と退職金についても基本給同様の考え方ですが、退職金の位置づけによって勤続年数の補正の有無が異なります。
参考:厚生労働省 多様な働き方の実現応援サイト「短時間正社員制度の導入手順」
諸手当
短時間正社員の諸手当については実情に応じて企業により判断されます。扶養手当や住宅手当などはフルタイム正社員と同額に設定されるのが一般的ですが、通勤手当は、通勤日数に合わせて精算方法が異なるケースも多いようです。
有給休暇
有給休暇については、労働基準法第39条により「正社員、パートタイム労働者などの区分なく、一定の要件を満たした全ての労働者に対して付与される」と定められています。そのため、短時間正社員でも有給休暇は付与されます。
人事評価
厚生労働省では、人事評価について「同じ職種・職位のフルタイム正社員との比較においては、「量」的な目標は労働時間に合わせて減らし、「質」的な目標は変えないというのが原則」と示しています。
参考:厚生労働省 多様な働き方の実現応援サイト|短時間正社員制度の導入手順
短時間正社員の保険制度適用条件は?
正社員同等の労働条件で短時間勤務ができる点は魅力的ですが、社会保険や雇用保険はどのような扱いになるのでしょうか。ここで、短時間正社員の保険制度にまつわる疑問を解消しておきましょう。
社会保険
通常、社会保険は「一般雇用者の労働時間と比較し、4分の3以上の時間で勤務している」という条件(通称:4分の3ルール)をクリアしていれば適応されますが、これには例外もあります。厚生労働省によると、4分の3ルールを満たしていないケースでも、企業があらかじめ短時間正社員に対して労働契約や給与などに関する規定を設けている場合は、一定の条件をクリアしていれば社会保険が適用されるとのことです。
参考:厚生労働省「短時間正社員に係る健康保険の適用について」
雇用保険の適用条件
雇用保険は、フルタイム正社員や短時間正社員、パートなどその契約形態にかかわらず適用されるものです。ただし、以下の条件をクリアしている必要があります。
- 期間に定めのない雇用契約である、または31日以上継続して雇用される見込みがある
- 週あたりの所定労働時間が20時間以上である
短時間正社員で働くメリット
短時間正社員としては働くことにはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、主なものをピックアップして紹介します。
短時間勤務でも正社員としての待遇が受けられる
短時間正社員と同様に短時間勤務が可能な雇用形態としてよく知られているのは、パートでしょう。しかし、双方は待遇面で大きく異なります。
例えば、雇用契約期間の定めの有無です。正社員はフルタイム正社員と同様無期雇用ですが、パートでは有期雇用が一般的短時間とされています。
ほかにも、パートは給料や人事異動の面でも正社員とは区別されます。
ワーク・ライフ・バランスが保ちやすい
短時間正社員は、フルタイム正社員に比べて勤務時間が短いことからワーク・ライフ・バランスを保ちやすい働き方だといえるでしょう。仕事とプライベートの時間を両立させられれば、メンタルヘルスの向上も期待できます。
ライフステージによらず活躍の機会が得られる
「正社員として仕事を継続し、キャリアを積み重ねたい」と希望していても、子育てや介護などのライフイベントによって一時的にフルタイム勤務が難しい時期もあるでしょう。そこで短時間正社員という道が選択できれば、キャリアを中断することなく活躍の機会が得られます。
短時間正社員で働くデメリット
多くの魅力を持つ短時間正社員という雇用形態ですが、いくつかデメリットも存在します。事前に把握したうえで、自分に合う働き方かどうかを判断するようにしましょう。
フルタイム正社員に比べると給料が低くなる
先にも紹介しましたが、短時間正社員の給料はフルタイム正社員と同様に算出されるものの、支給額は労働時間に応じて変動します。つまり短時間勤務である分、短時間正社員の給料はどうしてもフルタイム正社員より低くなってしまうのです。
残業が認められない
退勤時間までにノルマがこなせない場合や、家庭の状況などでフルタイム勤務が可能な日には、残業を希望する人もいるでしょう。しかし短時間正社員では、その制度の導入趣旨から、残業や一部の日のみのフルタイム勤務は認められていません。
昇進・昇格が遅れることもある
前述のとおり、厚生労働省では短時間正社員の人事評価については「量より質で評価」し、「勤務時間が短いという理由で、昇進や昇格に不利益があってはならない」としています。企業が正しくこれを理解できていれば理想的ですが、残念ながら企業によっては正しく理解・運用されていないケースも見られます。その場合には、想定していたよりも昇進・昇格が遅れてしまうかもしれません。
フルタイム正社員に戻れない場合もある
フルタイム正社員から短時間正社員への転向を考えている場合、一度転向したらフルタイム正社員には戻れない場合がある点には注意が必要です。先にも説明したとおり、短時間正社員制度の適用期間の有無や設定期間、適用期間後の対応についての判断は各企業に委ねられているため、そもそも「フルタイム正社員に戻る」という選択肢自体が用意されていないケースもあります。
短時間正社員が向いているのはどんな人?
短時間正社員が向いているのは、以下のような人です。
- 育児や介護をしている人
- 病気療養からの復帰を検討している人
- シルバー世代の人
上記のような事情からフルタイム勤務が難しい場合には、短時間正社員の道を模索してみるとよいでしょう。
【短時間正社員】求人探しのポイント
最後に、短時間正社員の求人を探すうえで押さえておきたいポイントを紹介します。
短時間正社員はサービス業や専門職が狙い目
短時間正社員の求人は、接客を中心とするサービス業や、医師・薬剤師・保育士などの専門職で多い傾向にあります。これらの業種の経験者や有資格者で短時間勤務を希望している場合には、積極的に短時間正社員での求人を探してみるのがおすすめです。
企業自体が短時間正社員制度を導入していることが前提条件
短時間正社員制度を導入するかどうかの判断は、企業の任意です。そのため、そもそも企業自体が同制度を導入していることが応募の大前提となります。
求人票や企業情報に「短時間正社員制度」という文字が入っていれば、短時間正社員で働けるチャンスがあると考えられるでしょう。また、制度導入の有無と併せて、実際に短時間正社員制度を利用している社員がいるかどうかもチェックしておくと安心です。制度自体は導入していても、採用実績が少ない、またはないような場合は現時点での採用はあまり期待できないかもしれません。
まとめ: 求人サイトを活用しながら、効率的に短時間正社員を目指そう!
短時間正社員は、これまでは育児や介護を理由にキャリアの中断を余儀なくされてきたような人にとって、活躍の幅を広げられる新たな働き方の選択肢です。ただし、その仕事探しにおいては「短時間正社員制度を導入している企業を探す」などのコツも要するため、求人サイトを上手に活用しながら効率的に就職・転職活動を進めましょう。