公的医療保険制度_高額療養費

こんにちは。キャリコン社労士の村井真子です。
癌や免疫系疾患など、治療にかなりの時間とお金がかかるものはすくなくありません。もし民間の保険会社の医療保険に入っていない状態でそんな病気であることがわかったらどうしよう……という不安をお持ちの方も多いことかと思います。
ですが、公的な医療保険でもかなりカバーできるものがあるんです。

今回から数回に分けて医療保険制度のなかにある治療費の補助、生活の補助について解説していきますが、今回はその中でも最も有名な高額療養費について説明します。

1)高額療養費=窓口で支払う額を一定額で打ち止めにしてくれる制度のこと

高額療養費は、国民健康保険制度または社会保険の健康保険制度(協会けんぽ等)のすべての加入者に支給される給付です。

公的医療保険制度_

具体的には、保険診療を受けるときの自己負担額を一定額で打ち止めにしてくれる制度です。この一定額のラインを自己負担限度額と言い、医療保険制度ごとに年齢及び所得額で決まっています。一つの目安として窓口で支払った額が80,100円を超えるということをよく言いますが、厳密には加入制度・年齢・収入により目安額が異なります。詳しくは表をご覧ください。

請求先はご自分の加入している保険制度の運営者(保険者)です。
ただし、自治体によって付加給付として自己負担限度額を引き下げていたり、健康保険組合の保険制度に加入している場合は独自に自己負担限度額を定めている場合もあります。

詳しくはお住まいの自治体及び健康保険組合にご確認ください。

69歳以下の方の自己負担上限額

所得区分(年収の目安) 自己負担限度額(世帯ごと)
ア)年収 約1,160万円〜 252,600円+(総医療費-842,000円)×1%
イ)年収 約770万円〜1,160万円 167,400円+(総医療費-558,000円)×1%
ウ)年収 約370万円〜770万円 80,100円+(総医療費-267,000円)×1%
エ)年収 〜約370万円 57,600円
オ)住民税の非課税者等 35,400円

※所得区分をわかりやすくするために目安の年収を示しています。実際は年収によって区分が分かれているわけではありません。詳しくは加入されている保険者にご確認ください。

この表の見方がわかりにくいので例を上げます。

【例2】Aさん 30歳・自営業・年収700万・国民健康保険加入
Aさんは表のウに該当します。

この場合、窓口で1か月に支払った額が80,100円を超えたところで高額療養費の対象になりますので、仮に窓口で10万円支払ったとすると、概算で自己負担額は80,730円になり、差額19,270円が高額療養費として支給されます。

【例2】Bさん・52歳・パート・年収350万・健康保険加入
Bさんは表のエに該当します。
この場合、窓口で1か月に支払った額が57,600円を超えたところで高額療養費の対象になります。仮に窓口で8万円を支払っていれば差額22,400円が高額療養費として支給されます。

2)高額療養費の注意点

①歴月単位で計算する

1か月に、と断りがあるのは、高額療養費の計算をするのは歴月単位になるからです。
例えば前述のBさんが1月5日に入院し、1月20日に退院して、窓口で6万円支払ったというケースは高額療養費の支給が受けられます。
しかし、1月25日に入院し、2月10日に退院して同じ費用を支払うことになった場合、それぞれの月ごとに自己負担限度額を計算しますので、1月だけで57,600円を超えるかどうかが問われます。
治療や入院をされる場合で、高額療養費の対象になるかどうか……という方は可能であれば医師と入院時期についてご相談できるといいでしょう。

②窓口で支払った額すべてが対象になるわけではない

窓口で支払うのは保険診療の費用だけではありません。
入院した場合ですと食事代や個室を希望した場合は個室の料金も合わせて支払うことになります。これらの「保険診療ではない費用」は高額療養費の対象になりませんので注意が必要です。

➂支給申請してから返金されるまでに時間がかかる

高額療養費は原則としてはいったん窓口で支払いを全額行い、その後差額請求をする方式をとっています。従って、一度は総医療費の3割負担を自分で建て替えて支払うことになります。
厚生労働省のホームページでは申請から実際に振込までにかかる期間として「受診した月から少なくとも3か月以上かかる」と明記されています。
従いまして、仮に5月から8月まで断続的に高額療養費の支給対象になるような月がある方については、最短で申請・受給決定したとしても5月分の高額療養費が支給されることになる8月まではすべて自分で一度は支払わなくてはなりません。

参考:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆様へ」

なお、このような「予め高額療養費が支給されることが明白」な状態がある方については事前に手続きを取ることで窓口での支払額を自己負担限度額までに押さえられる「限度額適用認定証」を提示することもできます。

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5)高額な治療費になることが予想されるときは「限度額適用認定証」を!

「限度額適用認定証」は、予め申請することで窓口での支払いを自己負担限度額までに押さえることができるという制度です。
発行は高額療養費と同様自分の保険証の発行元(保険者)に対して郵送で行います。
協会けんぽの場合、申請書を郵送してから1週間程度で限度額適用認定証が届くため、入院時期が分かっている方はお早めに限度額適用認定証を入手されると安心です。
なお、この制度を利用した場合は予め高額療養費の支給を受けることと同義になりますので、原則として改めて高額療養費の支給申請をする必要はありません。ただし、入院と外来、施設ごとに限度額を見ていくこととなるため、同月で入退院・外来などがあった場合は高額療養費の支給申請が必要になることもあります。
入院施設を持つような病院はこのような制度を利用される患者さんを多く抱えているので、病院の相談窓口やソーシャルワーカーを配置しているところも多くあります。治療に入る前に、病院にそのような窓口があるかを確認してみることをお勧めいたします。

6)多数回該当、世帯合算……高額療養費は手厚いサポートで安心して医療を受けられる

高額療養費制度は公的な医療制度のなかにあるので、前述の限度額適用認定制度だけではなく様々な負担軽減措置を講じています。
その中の一つが「多数回該当」制度です。これは過去12月間に3回以上高額療養費の支給を受けた方について自己負担限度額を引き下げるというものです。
例えば前述のBさんの例ですと、それまで57,600円だった自己負担限度額が44,400円に引き下がります。
また、自分一人では自己負担限度額は超えないが、同一世帯の家族の医療費を足すと自己負担限度額が超えるという場合に高額療養費を受給できる「世帯合算」という制度もあります。高額療養費は通常1回の支払額で自己負担限度額を見ていきますが、この世帯合算の仕組みにより入院と外来、院外薬局での処方を受けた場合など複数の医療機関で支払った金額を合算することができます。

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以上のように、高額療養費は非常に手厚い医療サポートをしてくれる制度です。
つらく苦しい闘病生活を送られる方が少しでも負担なく安心して医療を受けられるように、ぜひこうした制度を活用いただければ幸いです。