社員が副業をオフィス滞在中に行っていた場合、勤務先企業から禁止されるなど何らかの制約を受けることはあるのでしょうか。本記事では副業受入を推進する一般社団法人の理事も務める社労士が、法的観点から副業のグレーゾーンについて解説します。

1)社内で行われる副業は禁止なのか?

企業が副業を解禁している場合、副業を希望する社員が副業をすること自体は問題がないと考えられます。

民間会社の調査によると、回答者の2割が現に行っており、9割弱の人が「今後始めたい」と回答している「副業」(参照:2022年 副業・兼業に関する実態調査|Job総研)。厚生労働省も2022年に副業・兼業のガイドラインを発表するなど、政府も副業・兼業を働き方の選択肢の一つとして推進しています。

しかし、以下の場合は問題になることが多いようです。

  • 副業先が勤務先と同業種であり、副業することが競業となる可能性がある場合
  • 副業することで勤務先の営業秘密が漏洩する恐れがある場合
  • 副業を勤務先の就業時間内に行っている場合

本記事では、これらの問題について解説していきます。

休憩時間_副業

2)副業先が勤務先と同業種であり競合関係にある場合

副業先が勤務先と同業である場合、競業禁止義務違反になる可能性があります。

競業とは、企業が実際にその事業として行っている取引と目的物と市場が競合するという意味です。このような関係に勤務先と副業先がある場合は、副業としてその仕事を受けてしまうことによって本来勤務先が得るべき利益を逸することになりかねません。

勤務先と雇用契約を結んだ時点で、社員と会社の間には労働契約上の付随義務も当然に結ばれているものと考えられます。例えば、使用者は労働者に対し安全配慮義務を負うことになるのと同様に、労働者側も「使用者の利益を不当に侵害しない義務」を負うことになるのです。したがって、競業関係にある企業との副業は慎むべきでしょう。

3)副業することで勤務先の営業秘密が漏洩する恐れがある場合

副業するにあたり、勤務先の営業秘密(副業にあたって業務上知りえた秘密)を漏洩する可能性がある場合の副業は守秘義務違反になる可能性があります。

企業にとって営業秘密は利益を生み出す源泉ともいえる情報です。企業は営業秘密によって利益を得ており、そこから社員の給与を支払っているといっても過言ではありません。社員が副業先や副業する過程で営業秘密を漏洩した場合、勤務先の企業が得るべき利益を失わせることになります。意図して行われた漏洩かどうかに関わらず、企業に甚大な被害を与える可能性もあり、営業秘密の取扱いは十分に注意が必要です。

なお、前述した競業禁止義務と同様、労働者は企業との労働契約に付随し営業秘密に関する守秘義務を負うと考えられます。

勤務時間中の副業

4)副業を勤務先の就業時間内に行っている場合

労働者は企業と労働契約を結ぶことにより、契約によって定められた時間に労働力を提供する義務を負うことになります。また、これによって先に述べた競業禁止義務、守秘義務と同様に職務専念義務も負います。職務専念義務とは、契約された時間内について使用者の指揮命令にしたがって職務に専念するという義務のことです。

したがって、就業時間内に副業を行うことは職務専念義務違反ということになります。

なお、就業時間内であっても、休憩時間については自由利用の原則から副業は認められると考えられます。しかし、副業するために職場のパソコンや貸与されたスマートフォンを使う場合は会社の備品を流用していると考えられるため、トラブルを避けるためにも社員自身が保有するパソコンやスマートフォンを使うことが望ましいです。また同様に、インターネット回線についてもセキュリティ上のリスクがあることから自分で契約した回線を使いましょう。

5)副業する場合は労働者としての信義則を守ろう

副業をする場合は、まず勤務先の就業規則を確認しましょう。企業によって全面的に認める場合と許可制の場合があります。許可制の場合は上記2)から4)にあるようなケースに該当しないかどうか個別具体的に判断して許可される場合が多いため、社員側の視点でものちのトラブル回避のために正直に申告しましょう。

就業中の副業

副業する場合は勤務先に対する労働契約及びそれに付随する義務を自覚し、副業に取り組むことが重要です。副業は労働者にとって新たな収入源となるばかりではなく、人的ネットワークの強化など社会関係資本につながるほか、新たな知見や経験の獲得にもつながるものです。許可制の企業で副業をしたい場合は、こうした副業の効果も提示しつつ、勤務先と相談しながらすすめましょう。