転職や新卒で会社に入社する際に求められることもある健康診断の受診結果。
企業には雇い入れた社員に対して健康診断を受けさせる義務があります。
この記事では雇い入れ時の健康診断が必要な理由や対応について社労士が解説します。
1)雇入れ時健康診断とは?
企業は自社の労働者に対し、定期的に健康診断を受けさせる義務があります。これは入社時も同様で、新しく雇い入れた人に対しても健康診断を受けさせる必要があります。このふたつを合わせて一般健康診断と呼び、特に前者を定期健康診断、後者を雇入れ時健康診断と呼んでいます。
雇入れ時健康診断と定期健康診断の項目はそれぞれ下記のとおりです。いずれも事業主が検診費用を負担しますが、雇入れ時の健康診断は入社前3か月未満の間に受診した健康診断で下記項目が網羅されていれば、その提出をもって省略できます(出典:労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~|厚生労働省)。
雇入れ時の健康診断
内容 | 1 既往歴及び業務歴の調査 2 自覚症状及び他覚症状の有無の検査 3 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査 4 胸部エックス線検査 5 血圧の測定 6 貧血検査(血色素量及び赤血球数) 7 肝機能検査(GOT、GPT、γ―GTP) 8 血中脂質検査( LDLコレステロール,HDLコレステロー ル、血清トリグリセライド) 9 血糖検査 10 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査) 11 心電図検査 |
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タイミング | 雇入れ時 |
根拠条文 | 安衛則第43条 |
定期健康診断
内容 | 1 既往歴及び業務歴の調査 2 自覚症状及び他覚症状の有無の検査 3 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査 4 胸部エックス線検査(※) 及び喀痰検査 5 血圧の測定 6 貧血検査(血色素量及び赤血球数)7 肝機能検査(GOT、GPT、γ―GTP) 8 血中脂質検査( LDLコレステロール、HDLコレステロー ル、血清トリグリセライド) 9 血糖検査 10 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査) 11 心電図検査 |
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タイミング | 年1回、定期に |
根拠条文 | 安衛則第44条 |
2)雇入れ時健康診断が必要な理由とは?
健康診断を入社後いつまでに受けさせればよいかは法律では明確に定められていません。しかし、雇入れ時健康診断が必要な理由から鑑みれば、雇入れ後なるべく早く、少なくとも配属前には実施していくことが必要だと思われます。
健康診断が必要なのは、企業は労働者が働く環境を安全に整える義務があるからです。これを安全配慮義務と言い、労働契約法第5条によって定められています。
雇入れの際に健康状態を確認する理由は、この安全配慮義務を履行するためです。例えばアレルギー疾患のある労働者がアレルゲンと接触する恐れがある場合、その職務につかせることは重大な健康被害につながる可能性があります。
また、本人としては問題がないと思っていても、常時服薬している場合はその薬の副作用の確認をしておく方が企業としては望ましいと言えます。強い眠気が出る処方の場合は運転などの業務に就かせることを避けたほうが安全だからです。
こうした理由により、雇入れ時の健康診断は配置場所を決定する前に行われることが望ましいと言えます。
3)雇入れ時健康診断を受診するときの手続きは?
雇入れ時の健康診断を受診する場所は、会社の指定する病院でも労働者本人が選択する病院でも基本的には問題ありません。また、新卒採用時などに行われる会社で一括に行う集団検診でも、労働者が個々人で個別に受ける個別検診でもどちらでも構わないとされています。
しかし、雇入れ時健康健康診断は会社が費用負担すべきものであることから、多くの場合は会社指定の病院での集団または個別検診を受けることになる場合が多いでしょう。受診のタイミングや予約方法、指定病院の有無も含めて会社によく確認をしておきましょう。
費用に関しては会社が負担することになっています。受診の費用の支払いは病院から会社への請求書の場合もありますし、受診した労働者が立て替えた費用を会社が後日清算する場合もあります。健康診断の費用は診断項目によっても前後しますが、5千円~1.5万円程度かかります。
また、企業は受診結果証明書として健康診断証明書の取得を求めることが一般的です。その場合、交付申請に500円~2千円程度かかりますので、立替払いで清算の場合は費用の準備も必要です。
なお、健康診断の受診にあたり、就労日に健診を受けることとなった場合、その時間の賃金について企業の支払義務はありません。同様に、休日に受診を求めることも可能です。個別健診の場合は自分で受診日を決めることも可能なことも多いので、受診の日付については会社と相談することをお勧めします。
4)雇入れ時の健康診断の役割を理解し、働きやすい環境を作ろう
雇入れ時の健康診断を受けることで、会社は労働者の健康状況や既往症を含め、労働者が働くうえで留意すべき事項を知ることができます。
仮に隠しておきたいような既往症や通院歴があったとしても、誠実に開示することでより働きやすい職場に配置される可能性が高まります。
もちろん、健康情報は重要なプライバシー情報ですので開示は義務ではありません。しかし、働くうえで会社に配慮を求めたいことがあるのなら、この機会を活用してより自分にとって働きやすい環境を整えていきましょう。