中小企業男性育児休業取得促進奨励金

愛知県が2023年9月に発表した「愛知県中小企業男性育児休業取得促進奨励金」は、連続ではなく通算14日以上の休業で支給対象になるなど、使い勝手の良さや受給金額の大きさで注目度の高い奨励金です。この記事ではこの奨励金について対象や受給のために準備すべきものなどを社労士が解説します。

1)中小企業男性育児休業取得促進奨励金とは

中小企業男性育児休業取得促進奨励金(以下、奨励金)とは、愛知県が独自に企画・実施している男性の育児休業に関する制度です。

2歳未満の子どもを育てる男性従業員が出生時育児休業・育児休業を行った場合、その休んだ日数により下記の金額が会社に支払われるというものです。

休業期間 通算14日以上 通算28日以上
金額 50万円 100万円

愛知県の独自制度・中小企業男性育児休業取得促進奨励金早見表

2)中小企業男性育児休業取得促進奨励金が生まれた背景

愛知県における2021年の男性の育児休業取得率は8.6%。全国平均の13.97%を大きく下回る結果となりました(出典:あいちの産業と労働Q&A2022,p80。画像も同じ)。また、愛知県の出生数は減少傾向で、2022年は5万3,221人になりました。

育児休業取得率のグラフ

奨励金が設けられたのは、こうした状況を改善すべく、県は男性が育児休業を取得できる環境をつくるためです。企業に対し独自給付でインセンティブを与え、男性の育児休業を促進する狙いと考えられます。

育休取得中のメモ

2)中小企業男性育児休業取得促進奨励金を受給するために準備すべきこと

奨励金の申請には、必須になっている要件がいくつかあります。そのうち、特に対象となる育児休業を行う男性従業員にあらかじめ了解を採るべきものが2つあります。この2点の同意が取れない場合、他の要件を満たしていても申請ができませんので注意しましょう。

①子の出生後、住民票を取得し会社に提出してもらうこと

奨励金を申請する際の添付書類に、対象となった男性従業員の住民票があります。男性従業員自身と子どもの記載が必要で、子の養育者として続柄が記載されたものが必要です。マイナンバーや本籍地の情報は不要ですが、会社が代理で取得することが出来ないものですので、本人にあらかじめその旨を伝えておく必要があるでしょう。なお、この住民票の取得費用は会社負担で行うことが望ましいと考えられます。

➁育児休業についてのレポートを公開すること

奨励金の支給要件に、会社の取組みと合わせて対象となった男性従業員自身のレポートを公開することが求められています。このレポートを「育児休業取得状況等報告書」と言い、レポートの対象となるのは下記の5項目です。

  1. 育児休業を取得したきっかけ
  2. 育児休業を取得して良かったこと
  3. 育児休業の取得にあたり、円滑に業務を引き継ぐ上で工夫した点
  4. 育児休業の取得経験を通して業務に生かせていること
  5. これから育児休業の取得を検討している方へのアドバイス

本人の氏名が乗るわけではありませんが、この情報を自社のWEBサイトや社内報、社内掲示板等に掲載することが必要です。なお、このWEBサイトはInstagramなどのSNSでも問題ありません。

また、愛知県の「あいちイクメン・イクボス応援サイト」に公開することが想定されています。

したがって取得した男性従業員がこれらのレポートの掲載を拒否する場合、奨励金の申請が出来ません。

したがって事前にその旨を説明して同意をとることや、レポートの内容を掲載しても障りのないような表現にしてもらうなどの配慮が必要かと考えます。

3)中小企業男性育児休業取得促進奨励金の対象

奨励金の支給対象となるのは下記の要件を満たす会社、NPO法人、社会福祉法人、医療法人、学校法人、一般社団法人、事業協同組合などです。

規模要件 常時雇用する従業員数が300人未満
地理要件 本社(本店)が愛知県内にある
保険要件 雇用保険の適用事業所である
整備要件 就業規則に育休制度を設けること(10人以下の場合届出までは不要)

また、対象となる育児休業は下記のとおりです。

誰が 県内の事業所に勤務している雇用保険の被保険者である男性従業員が
誰を 養育する2歳未満の子を
どれぐらい 通算14日以上取得した場合に
どういう条件で その育児休業に関する体験談のレポートを会社のWEBサイトで公開することに同意し、
実際公開した場合に支給される

なお、1事業主に限り1回だけの支給になります。

通算14日休業した労働者で50万円を受給後、通算28日以上休業した労働者の受給のあとで100万円の対象となる労働者がいた場合は、50万円の奨励金を取下げて100万円を申請することができます。ただし、予算に限りがある奨励金ですので、後発の100万円の申請時に財源枯渇で内きりになる可能性は考慮しておくべきでしょう。

4)中小企業男性育児休業取得促進奨励金の申請期限

奨励金の申請期限は2023年9月4日から2024年3月31日までの期間内で、対象従業員が育児休業から原職等に復帰後2か月経過した日の翌日から3か月以内、又は2024年3月31日のいずれか早い日までに申請します。

ただし、復帰後2か月経過した日の翌日が2023年9月4日以前となる場合は、2023年12月3日までの申請が必要です。

なお、予算上限に達した場合はその時点で打ち切りとなりますので、お早めの申請がよさそうです。

中小企業男性育児休業取得促進奨励金の申請期限

5)中小企業男性育児休業取得促進奨励金を利用して男性育休を進めよう

奨励金の使途は限定されておらず、育休取得者の仕事に対する代替要員の人件費にあてたり、業務効率化の費用に充てることができます。男性育休の取得推進を後押しする奨励金を使い、社内に男性育休があたりまえに取得できる空気をつくりましょう。