残業_労働時間と就業規則

先月残業したはずなのに、残業代が払われていない……。

今回はそんな経験のある方に、労働時間と残業代の関係、適法または違法状態の判断基準についてご案内します。
なお、働いているのにその分の時給・賃金がそもそも支払われていない場合は完全に違法ですので、労働基準監督署や社労士など外部の専門家にご相談ください。

1)そもそも残業しても割増が付かないケースがある

ところで残業という言葉は、労働基準法上は所定内残業と所定外残業に分類できます。

所定内、所定外というのは所定労働時間内、所定労働時間外の略語です。所定労働時間とは、労働者が就労することを会社と約束している時間のことで、労基法ではこの時間を1日について8時間、1週間について40時間までと上限をかけています。この上限の時間を法定労働時間といいます。

ポイント

  • 会社には所定労働時間と法定労働時間がある
  • 所定労働時間は会社によって、場合によっては人によって異なる
  • 所定労働時間は1日8時間、1週間40時間の法定労働時間が上限になる

2)具体例 残業代の計算方法

具体的に例をあげます。

Aさんの勤務する会社では10時始業、17時終業で休憩は1時間と就業規則で定められています。この場合、実働は6時間になりますので、所定労働時間は6時間です。Aさんの時給は1000円でした。

このAさんが、18時まで残業したとします。この場合1日の残業時間は1時間です。この1時間について、Aさんが貰うことができる残業代は1000円です。

理由としては、1日8時間の法定残業時間内に残業を含めた一日の労働時間が収まっているからです。この法定労働時間までは1.25倍の割増はつかず、通常の時給が支払われていれば適法となります。

では、Aさんが20時まで残業したとしたらどうでしょう。

残業時間は3時間です。このうち、2時間は所定内残業、はみだした1時間が所定外残業になります。この場合Aさんに支払われる残業代は3250円になります。計算式は1000円×2時間+1000円×1.25倍×1時間になります。

このように、残業代の計算についてはその方の所定労働時間と大きく関係してくるのです。

残業代_電卓

3)法定時間内であれば、企業は36協定なしに残業可能

ところで、企業が残業を命じる際に「36協定」がなければならないことはよく知られています(36協定について詳しくはこちらの記事をご参照ください)。

ところが、この36協定がなくても企業が残業を命じることができる場合があります。

それがこの法定労働時間と所定労働時間の差の時間です。

法定時間内に関しては、36協定がなくても企業は残業を命じることができるのです。また、同様の理屈で休日出勤も命じることができます。例えば1日4時間勤務の方が週6日勤務をされている場合、1週間の所定労働時間は24時間ですから、所定休日に8時間などの出勤命令が出る可能性がありますが、それを拒むことは原則としてできません。

もっとも、このような勤務が常態化している場合はトラブルの種になります。事前に説明がない場合、労働者としては「そんなこと聞いてない!」と反発することは当然です。ですから、労働契約がその時間に沿っているかどうかを確認の上、一致させていくことがトラブル防止策として会社に求められる措置になるでしょう。

また、適法に行われる変形労働時間において、1日の労働時間を8時間以上に設定している場合もあります。この場合は週40時間以内に収まっていて、かつ変形労働時間制の他の要件がきちんと満たされていれば割増賃金の支払いなしに労働者は1日8時間以上働く必要があります。

残業代_デスクに向かうサラリーマン

4)所定労働時間の確認方法

では、割増賃金の支払いを受けるかどうかの基準となる所定労働時間をどのように確認すればいいのでしょうか。

正社員で働いている場合、もっともよい方法は就業規則を確認することです。就業規則には絶対に書かなければならない項目がいくつかあり、労働日における始業・就業の時間はこれに該当します。また、工場勤務などで三交代制等の場合もシフトパターンを記載する必要があるため、自分の労働時間をここで把握することが可能です。正社員も雇用契約を結んでいるのですが、異動があったり転属などで部署ごとに所定労働時間が違うケースもあるため、まずは就業規則の記載を確認してみましょう。

正社員以外の場合の社員、契約社員や嘱託社員、短時間正社員などの場合は、それぞれの就業規則があれば同様に確認します。ただし、会社によっては人数が少なかったり、試験的に導入していてまだ規則に定めることができないという理由のために、そのような方々を正社員用の就業規則から除外して個別の雇用契約で時間を定めている場合があります。その場合は自分がどのような労働時間で契約を結んでいるのかを確認します。

なお、こうした確認の必要もあるため、雇用契約書(労働条件通知書)は労働者へ交付することが企業に義務付けられています。

残業代_仕事時間

5)割増賃金について理解し、気持ちよく働こう

こうしたお金に関するモヤモヤは労働者側からするととてもネガティブなものです。

サービス残業とは、残業している時間に対する時給のみならず、その時間に対する割増賃金も支払われないという意味で二重に問題がありました。冒頭に申し上げた通り、働いているのにその分の時給・賃金がそもそも支払われていない場合は完全に違法な状態です。しかし、残業しても割増がでないということが直ちに違法なのではありません。会社の非を追求するためにも、労働者側も正しい知識をもって気持ちよく働ける環境を作りましょう。