東三河新事業振興協会_太田晴也会長

1990年代から東三河地域の企業における新事業創出や起業支援、大学との産学官連携などに取り組んできた株式会社サイエンス・クリエイトが、6月末をもって解散しました。地域の産業を支える使命は、新たに設立された一般社団法人「東三河新事業振興協会」へと引き継がれています。

新しい団体は、地域の中でどのような役割を担い、今後どのような活動を進めていくのでしょうか。

今回は、株式会社サイエンス・クリエイトの代表取締役社長を務め、現在は、東三河新事業振興協会の会長である太田晴也さんに、新しい団体の役割や今後の取り組み、東三河への思いを伺いました。

会長・太田晴也ってどんな人

太田晴也

ご出身や、これまでのお仕事について教えてください。

出身は豊橋市です。新川小学校に通っていたので、本当にまちなかで育ちました。

豊橋市役所には約20年間勤務し、特に長く携わったのが企画部門です。豊橋市の10年間のまちづくりの方向性を示す「総合計画」の策定を、2度担当しました。

その中のプロジェクトの一つが、サイエンス・クリエイトでした。当時は、施設をどこに建てるのか、どのような組織にするのかといったことを一から考える立場にあり、設立に向けた取り組みの責任者を務めました。

また、市役所では豊橋市内だけでなく、東三河全体の地域づくりにも関わっていました。

今の東三河は8市町村ですが、当時は19市町村ありました。その中で豊橋市は、ほかの市町村と連携しながら、まちづくりや道路など、広い地域で取り組む課題を考える役割を担っていました。

豊橋市役所を退職した後は、民間でビジネススクールの運営やビジネスコンサルティングに携わってきました。この仕事は現在も続けています。

そして4年前、これらの仕事と並行する形で、サイエンス・クリエイトの代表取締役社長に就任しました。

サイエンス・クリエイトが行っていた、企業の課題を聞き、大学や行政、専門家などとつなぎながら新しい事業を生み出していく仕事は、ビジネススクールやコンサルティングの仕事とも通じる部分があります。

市役所で地域づくりに携わった経験と、民間で企業や人の挑戦を支援してきた経験の両方が、今の仕事につながっていると思います。

新法人「一般社団法人東三河新事業振興協会」とは

東三河新事業振興協会は、どのような団体なのでしょうか。

基本的な役割は、サイエンス・クリエイトの頃と大きく変わりません。

地域の産業を育てることや、企業の新しい取り組みを支援すること、起業したい人を応援すること、大学の研究成果や先生方の知見を地域企業につなげることなどは、これからも続けていきます。

このタイミングで一度、これまでの事業を棚卸ししましたが、サイエンス・クリエイトが取り組んできたこと自体が悪かったわけではありません。基本的にはこれまでの事業を引き継ぎながら、今の時代や地域に必要な取り組みを加えていく形です。

東三河新事業振興協会は、東三河における産学官連携のプラットフォームとして、企業や大学、行政など、さまざまな人や組織の交流を促し、連携や共創の取り組みを支えていきます。

株式会社から一般社団法人へ。どのような違いがありますか。

サイエンス・クリエイトは、第三セクターとして設立された株式会社で、行政だけでなく、多くの民間企業にも出資していただいていました。そのため、地域への貢献はもちろん、株式会社として事業の採算性や継続性、株主への説明責任も意識した運営が求められていました。

一方、東三河新事業振興協会は一般社団法人なので、株式会社のような株主はいません。

一般社団法人では、構成員への利益分配を目的とせず、事業を通して生まれた成果や収益を、地域や社会のための新たな取り組みに生かしていきます。

まずはサイエンス・クリエイトから事業を確実に引き継ぎ、これまでの利用者や関係者に影響が出ないよう、円滑に運営していくことを大切にしています。

新法人として、特に力を入れていきたいこと

東三河_新法人

今後、特に力を入れていきたいことを教えてください。

新たな事業として、「次世代半導体実装支援」「先端アグリテック導入支援」「ソーシャルビジネス創業支援」の3つに取り組みます。

中でも、国立大学法人 豊橋技術科学大学との連携と、地域課題を解決するソーシャルビジネスには、特に力を入れていきたいと考えています。

豊橋技術科学大学とは、今後どのように連携していきますか。

豊橋サイエンスコアが豊橋技術科学大学の近くに建てられた背景には、大学と地域が連携し、新しいものを生み出していこうという考えがありました。

ただ、30年以上前と現在では、大学を取り巻く環境や仕組みも大きく変わっています。

以前は、大学が自ら研究成果を事業化したり、スタートアップを立ち上げたりすることが難しかったため、サイエンス・クリエイトのような別の組織が必要でした。

現在は、大学自身が技術の活用やスタートアップ創出など、さまざまな活動に取り組めるようになっています。

その一方で、大学は全国や世界を視野に入れて研究を進めているため、地域企業との一つひとつの連携にまで、十分に手が回らないこともあります。

そこで、大学と地域企業の間に入り、大学が持っている技術や情報を地域に伝えたり、研修や交流の機会をつくったりすることが、私たちの役割になると思っています。

現在、豊橋技術科学大学では、半導体に関する大きなプロジェクトも動き始めています。

半導体は、全国規模の企業や多額の資金が関わる分野なので、地域企業がすぐにプロジェクトの中心に入るのは簡単ではありません。

それでも、大学が持つ技術や設備を地域企業に知ってもらい、将来的な連携のきっかけをつくることはできます。まずは、大学と地域との橋渡しから始めたいと考えています。

ソーシャルビジネスとは、どのような取り組みなのでしょうか。

ソーシャルビジネスもビジネスの一つですが、利益を出すことだけが目的ではありません。

地域に必要だけれど、行政だけでも、一般的なビジネスだけでも続けることが難しいものを、地域の人や企業が関わりながら続けられる仕組みにしていくものです。

例えば、中学校の部活動があります。

先生の負担や担い手不足によって、これまでと同じやり方では続けることが難しくなっています。しかし、子どもたちが運動や文化活動に取り組める環境は、できれば残していきたいですよね。

そこで、地域の人や企業が、人や資金を出し合いながら、活動を続けられる仕組みをつくる。これもソーシャルビジネスの一つの考え方です。

東三河でも、奥三河をはじめとする山間部では、人口減少によって、買い物や移動など地域の暮らしを支える仕組みが少しずつ失われています。

行政がすべてを支えることが難しくなる中で、地域ごとにみんなで知恵を出し、続けられる仕組みをつくる。そういう取り組みも、新しい事業として支援していけたらと思っています。

今までと変わらないこと

スタートアップガレージ

これまで行ってきた事業や支援は、今後も続いていくのでしょうか。

これまで行ってきた事業を、すぐになくす予定はありません。

起業や新事業に関するイベント、講演会や交流会、東三河ビジネスプランコンテスト、地域の産学官連携によるコミュニティ活動なども、基本的には引き継いでいきます。

また、豊橋サイエンスコアや駐車場などの施設管理、行政から受託している起業・創業支援事業についても継続します。

利用している方にとっては、「団体が変わって、今までの事業がなくなるのでは」と不安に感じる部分もあるかもしれませんが、基本的な役割は変わりません。

ただ、長く続けてきた事業の中には、少しマンネリ化している部分もあるかもしれません。

せっかく新しい法人としてスタートしたので、利用者や関係者の皆さんから、「こうした方がいい」「こんな支援があったらいい」という意見を聞きながら、より良い形に見直していきたいと思っています。

いま必要なのは、挑戦する人を支える「コーディネーター」

現在の東三河に、足りないと感じているものはありますか。

起業や新事業に挑戦するための施設や制度は、これまでの36年間で少しずつ整ってきました。

一方で、挑戦したい人の話を聞いて、必要な人や企業、大学、技術につなぐ「コーディネーター」が、まだ少ないと感じています。

今は、そうした役割をボランティアに近い形で担っている人も多いです。もちろん、そういう人も必要ですが、ボランティアだけでは、支援のノウハウや仕組みが地域に残りにくいんですね。

人や企業をつなぐことを、きちんと仕事として続けられる人や組織が、もっと増えるといいと思っています。

AIなどの新しい技術が発達すると、便利になる一方で、「どう使えばいいか分からない」「自社で何に使えるか分からない」という新しい困り事も増えていきます。

そういう時に、企業と技術の間に立って課題を整理し、必要な相手につなぐ人の役割は、ますます重要になると思います。

地域の皆さんへの一言メッセージ

太田晴也_会長

最後に、地域の企業や、これから何かに挑戦したい方へメッセージをお願いします。

何かやってみたいと思ったときに、まず誰かに相談する。分からないことがあったら、誰かに助けてもらう。そういう行動が自然に起きる地域になってほしいと思っています。

最初から具体的な計画ができている必要はありません。

「こんなことができたらいい」「今、こういうことに困っている」という段階でも、まず話してみることで、必要な人や新しい可能性が見つかることがあります。

東三河新事業振興協会も、そうした思いを受け止め、地域の企業や大学、人をつないでいく存在になりたいと思っています。

まとめ

新たに設立された一般社団法人東三河新事業振興協会は、サイエンス・クリエイトが担ってきた地域産業の支援や起業支援、産学官連携を引き継ぎながら、大学の研究成果や地域資源を生かした新たな事業づくりに取り組んでいきます。

「何かをやってみたい」と思った人が、気軽に相談し、一歩を踏み出せる地域へ。今後、東三河新事業振興協会を起点に、どのような事業や新しいつながりが生まれていくのか楽しみです。