皮膚の色が白く抜ける「白斑」。肌の「見た目」だけで社会参加が難しくなる人もいる
という事実を、박충국(パク・チュングク)さんから教わりました。
パクさんは手の甲に尋常性白斑を発症したのち、周囲の人から避けられたり「うつるのではないか」と言われたりすることで社会に出るのが怖くなり、うつ病を患った経験があるといいます。「白斑患者が自信をもって社会参加できるようにしたい」という想いから、現在は韓国で白斑専門カバー化粧品ブランド「MELAFIL(メラフィル)」を立ち上げています。私がパクさんからお話を聞いたのも、別件の取材で訪れた化粧品関連企業の展示会でした。
白斑は、年齢や人種、性別を問わず発症する可能性があり、若い世代で発症するケースも多い疾患です。「日本でも白斑が原因で社会に出づらい人、ひいては就労が難しくなっている人が多いかもしれない」と感じ、尋常性白斑患者さんへ就労についてのアンケート取材を行いました。
本記事では、白斑とはどのような病気なのか、患者さんは就労についてどのような困難を抱えているのかを紹介します。そのうえで、周囲はどのようなことに気をつければ白斑患者さんが働きやすくなるのかを考えてみたいと思います。
白斑とは?
皮膚の色がまだらに抜けて白くなるのが白斑です。肌に白斑が生じる病気はさまざまですが、厚生労働省の2009年のデータによれば、およそ6割は「尋常性白斑」が占めています。
<イメージ図>
顔や手など、服から見える部分に白斑が生じるケースも少なくありません。白斑は自然に治らず、多くの経過では範囲が少しずつ拡大していきます。
尋常性白斑は身近な疾患
尋常性白斑は人口の0.5%~1%が罹患していると推測されています。もし社員が200人の会社なら、尋常性白斑を患っている人が1人か2人いるイメージです。決して珍しい病気ではないことがわかります。
尋常性白斑の患者さんはどの年代にも見られますが、30歳くらいまでの若い時期に発症する人が多く、患者さんの自己肯定感やQOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)が低下しやすい病気でもあります。
治療法とカバーメイク
尋常性白斑の主な治療方法には、塗り薬や光線の照射、外科的な治療では皮膚移植があります。効果には個人差があるほか、治療の副作用やリスクも考慮しなければなりません。治療を開始しても、症状が改善するまで白斑と付き合う必要があります。
そこで、専用のファンデーションなどを使って、カバーメイク(カモフラージュメイク)をしている人もいます。白斑部分や白斑の境界部分に色をのせることで、目立ちにくくなります。
<↓ペンタイプの専用カバー化粧品:5時間程度経過すると2日~3日色が持続する>
※塗った部分がわかりやすいよう筆者の腕に重ね塗りしています。
カバーメイクは白斑を治す根本的な治療法ではありません。しかし、白斑患者さんの精神的な負担感を軽くし、QOLを保つために必要なケアです。
白斑患者さんの就労における困難
皮膚の見た目が大きく変化する白斑は、患者さんの就労にも大きく影響します。
「仕事の選択肢が狭まる」「見た目で面接に落とされる不安がある」といった就職・転職時の困難だけではないことがアンケート取材からみえてきました。
仕事を選ぶときに考えることは「見た目が影響しないか」
白斑患者さんのなかには「やりたい仕事」よりも「見た目が影響しにくい仕事」を優先的に探す人もいます。
- 営業や接客など人前に出る仕事は不安でできない
- 美容関係の仕事は選べなかった
- 飲食業界は不衛生だと誤解されそうなので避ける
といった声がありました。さらに、仕事を変えたくても「転職は難しいかもしれない」と諦めた経験がある人もいます。
世の中では多様性を認める動きが広まりつつあります。外見上の不安から思い通りのキャリアを歩みづらい人がいることにも、目を向ける時機なのかもしれません。
面接で感じる視線に不安
白斑患者さんが就職・転職の面接を受けるときには「面接官からの視線が気になる」という悩みがつきものです。
たとえ面接官が白斑について言及しなくても、じっと見られるだけで「見た目がマイナス要因となって落とされるのではないか」と不安な気持ちになるといいます。面接を受けるたびに「奇異の目で見られている」と感じている人もいます。
面接はただでさえ緊張度の高い場面です。見た目に不安を抱えていれば、なおさらナーバスになるのも当然でしょう。周囲の人はどのようにふるまえばよいのか、後の章で一緒に考えてみましょう。
職場で理解を得るのは大変
就職・転職活動が終われば「職場の人に白斑を理解してもらえるか」という壁に当たる場合も多いでしょう。
「あの”まだら”の人ね」「それ、大丈夫なの?」「うつらない?」など、周囲の人が何気なく発する言葉で傷つくケースも少なくないようです。ある尋常性白斑患者さんは「十数年前は見た目に驚かれるだけでなく、自身や会社、会社が作っている製品に対する信用まで疑問視された」といいます。誤解をとくだけでも相当な苦労をしたそうです。
「職場の理解」というと、同じ職場で働く上司や同僚だけをイメージしがちです。しかし、上司や同僚だけでなく、お客さんや取引先など、患者さんと関わるすべての人の理解が必要だと感じます。
「理解してほしいけれど…」白斑を職場に伝える理由と伝え方
白斑を職場に伝えるか伝えないかは、患者さんによって考えが異なります。伝えて理解してもらいたい人もいれば、一切言いたくないという人もいるでしょう。
実際に職場へ白斑を打ち明けた患者さんでも、伝えた理由は人それぞれでした。
- 最初からオープンにしたほうが精神的に楽
- 理解してもらえて助けてもらえる
- 何度も聞かれるのが嫌だから
- 余計な心配をされたくないから
メリットを感じて伝える場合と、伝えないとデメリットがあるから伝える場合があることがわかります。
さらに「一度で説明が済むよう多くの人がいる場で伝えた」という人もいれば「信頼できる上司や同僚にだけ伝えた」という人もいます。職場の人に理解してほしいと思う一方で、いつ、だれに、どのように伝えるか、慎重に考えている患者さんの姿が想像できます。
伝えられる側は、勝手に他の人に話さない、根掘り葉掘り聞かないなど、患者さんの気持ちを考えた言動を考えたいところです。
白斑患者さんが不安なく働けるようにするためには?
白斑患者さんが前向きな気持で社会に出て就労できるようにするためには、周囲の人の理解が不可欠だと感じます。なお「病気に対する理解」と「白斑患者さんの気持ちに対する理解」の両方が必要ではないでしょうか。
外見に不安を抱えやすい白斑患者さんが気持ちよく働ける環境とは?……。自分にできることを一緒に考えてみましょう。
病気を正しく理解する
「うつる」「不潔だ」など、白斑への誤解や偏見から避けられたら患者さんは深く傷つきます。
尋常性白斑はうつる病気ではなく、不衛生でもありません。病気の原因には、自己免疫や遺伝子が関係しているといった説が提唱されています。
「知らない」と「憶測」でものごとを考え、その結果「誤解」が生じます。さらに誤解が「偏見」へとつながれば、人を傷つけてしまうかもしれません。
誤解しない、偏見をもたないためにも、病気について正しく知ることが求められていると感じます。
ジロジロ見ない、驚かない
筆者含め、多くの人が気をつけたいのは「視線」です。
- 白斑のある部位を凝視する
- 何度もチラチラ見る
どこを見ているかは意外とわかりやすく、いずれも患者さんにとってストレスとなる行為です。さらに「え!その肌どうしたの?!」などと驚いたようなリアクションをするのも好ましくありません。
「見慣れない肌に驚くのは仕方ない。だけど、それを表に出さないでほしい」という患者さんの声が核心を突いているのではないでしょうか。たとえ心のなかで驚いたとしても、ごく自然にふるまうことはできるはずです。
白斑もシミやほくろと同じようなものだと捉えれば、どのような反応が自然なのか想像しやすいかもしれません。
助言や配慮よりも受容
「こういう治療がいいよ」「これ使うと目立たないよ」といったアドバイスや会社内での配置転換など、親切心からする言動であっても、白斑患者さん側は嫌な気持ちになることがあります。
よかれと思ってした助言や配慮でも、患者さんからすると白斑を患う自分を否定されていると感じるのかもしれません。患者さん側は、相手が親切心で言っているのがわかるため、無下にもできずモヤモヤすることがあるようです。
頼まれていない助言や配慮をするよりも、ありのまま個性として受け入れるほうが、お互いの負担になりにくいのではないでしょうか。
まとめ
外見によって、就労などごく普通の社会生活に困難を抱える白斑患者さんがいることを初めて知った人もいるでしょう。見た目が変化する病気は白斑だけではありません。さまざまな事情で外見が気になり、社会に出にくくなる人がいることを想像してみましょう。
自分とは大きく異なる見た目の人に出会ったとき、みなさんはどのように接しますか?
筆者は、初対面で驚かない自信があるとはいえません。しかし、驚いたことが表情や態度に出ないよう気をつけることはできると思います。また、病気について正しく知り、患者さんのありのままを受け入れ、自然に接することが大事だと感じました。
さいごに、白斑やカバー化粧品について教えてくれたパクさん、アンケートに協力してくださった患者さんに心よりお礼と感謝を申し上げます。