扶養_社会保険

前回、今年10月からの法改正で扶養の壁が今までの2段階から3段階になることをご説明しました。

今回は引き続き、扶養外で働くことによってどのようなメリットが生じるのかをご案内していきます。

「扶養から出ると社会保険を自分で払わなくちゃいけない!」と嫌がる方もいるかもしれませんが、扶養から出て社会保険に入るとメリットもあります。

1)そもそも、社会保険とは?

社会保険とは、医療保険、介護保険、年金保険、雇用保険、労災保険の5つの社会保障制度の総称です。ただし、狭義の社会保険では被雇用者を対象とした医療保険制度(健康保険、介護保険)と厚生年金保険制度を指すことが多いでしょう。求人票でいう「社会保険完備」の社保とは、健康保険と厚生年金保険を指すことが一般的です。

今回はこの健康保険、厚生年金保険に加入するメリットをご説明していきます。

2)メリット① 自分が出産・病気・けがなどで働けない時の金銭的な保証がある

社会保険加入の最も大きなメリットが、健康保険にご自身が加入することで得られる各種手当金の受給資格と、障害厚生年金の受給資格が得られることです。

健康保険には、大きく分けて2つの手当金制度が用意されています。いずれも、支給対象となる日に対し、お給料の日額の約2/3が健康保険制度から支給されます。(※)

  1. 出産手当金――出産のために仕事が出来ず、給与が得られないときに貰える手当
  2. 傷病手当金――けがや病気のために仕事が出来ず、給与が得られないときに貰える手当

これらの手当は、健康保険の被保険者本人に対してしか支給されません。扶養の範囲で働いている方でも妊娠・出産のために就労できない期間があることはもちろん、不慮の怪我や病気などで働けない場合もあるでしょう。例えば新型コロナウイルスに感染して療養する場合にも傷病手当金の支給を受けることができますが、受給資格があるのは被保険者本人に限られます。

特に、傷病手当金の支給対象となるけがや疾病の範囲はかなり広く、風邪や内科疾患、精神疾患、骨折、捻挫など健康保険を使って治療可能なほとんどすべてのけがや疾病をカバーできます。病院に行ったけれども明確な診断がつかない……という場合でも、就労ができない期間については傷病手当金が支給されます。

このような事態において金銭の保証がある安心感は、社会保険の加入の大きなメリットと考えられます。

※正確には①、②とも下記の計算による金額が報酬を受けなかった日に対して支給されます
【支給開始日の以前12ヶ月間の各標準報酬月額を平均した額】÷30日×(2/3)

また、厚生年金では怪我や病気を原因とする障碍で就労ができない場合、障害厚生年金の制度を用意しています。障害厚生年金は一番低い金額でも年額583,400円の最低保証があるため、長期加療が必要な人工透析やがんなどの病気になった場合は心強い支援になります。

就労不可の場合に支給されるのは障害厚生年金のみで、被扶養者である国民年金第3号被保険者に対しては日常生活が極めて困難など症状の要件が重要になりますので、その意味でも社会保険の被保険者になることは大きなメリットになると考えます。

3)メリット➁ 将来自分名義の年金が増える

社会保険加入のメリットの一つは将来自分が受け取れる年金額が増えることです。
国民年金は20歳から60歳まで40年間加入して初めて満額になりますが、仮にこの期間すべて被扶養者(国民年金第3号被保険者)であったとすると、自分の口座で受け取れるのは子老齢基礎年金のみで、月額は64,816円(令和4年価額)です。
しかし、この期間すべて月給13万円程度(年収156万相当)で厚生年金に加入していたとすれば、月額92,440円を受け取ることができるのです。
民間の有期年金と違い、終身で受け取ることができる老齢年金があることは将来の収入を増やすことにもつながります。
ここまでは主に社会保険への加入メリットについて説明してきましたが、扶養から出て働くと更にこんなメリットもあります。代表的なものとして所得税法上のメリットと、本人のキャリア形成が可能になるという二つの観点をご紹介します。

4)メリット③ 所得税の計算で有利

意外と知られていないのが、同じ世帯所得でもどちらか一方のみが所得を得ている場合と、夫婦共働きである場合の所得税は、後者の方が安くなるということです。
例えば世帯所得が1,000万の夫婦がいるとします。この場合、夫が1,000万円を稼ぎ妻が専業主婦である場合の所得税額と、夫婦それぞれが500万円を稼ぐ夫婦の所得税額は年間約62万円ほど開きが出てきます。
これは、所得税は個人に対して課され、かつ超過累進課税率が採用されているために起きる現象ですが、意外と知られていない事実です。
この点を考えると、扶養の範囲内で働いた方が必ずしも税法上得になるかどうかはその世帯所得によっても変わってくると言えます。

(参考 「日本一優しい税法と税金の教科書」西中間浩 著 日本実業出版社 2019年)

5)メリット④ 自分のキャリア形成に有利

さらに、扶養の範囲を超えて働くということは、そのぶん働く時間が増えるということでもあります。ということは、その分「仕事の経験」は増えることになります。そして、仕事の経験が増えれば、自分自身のキャリアの選択肢が広がるということにもつながります。
出産、育児、介護や思わぬ転居などがあってもキャリアをスムーズに継続するためには、自分自身が労働市場においてどのような価値を提供できるかどうかが重要です。
そのため、事情があって仕事を変わる場合や働き方を見直すことになったときに、キャリアを途絶えさせずにいたほうが選択肢を広げられるのです。
今はテレワークや業務委託など様々な働き方や仕事がありますので、自分自身のキャリアを継続させておいた方が、いざというときに自分が選ぶ立場に立つことができます。
もちろん、キャリア形成は必ずしもフルタイムで働かなければなされないということではありませんが、仕事の幅を広げたり、経験を積むという視点に立てば働く時間が伸びることは有利に働くことは間違いありません。
仕事に選ばれるのではなく自分が仕事を選ぶ立場に立ちたいと考えたり、時間制約があって長く就労することが難しいがしっかりお金も稼ぎたい!という方は、ぜひご自分のキャリアを将来を見据えて構築することをお勧めします。

6)まとめ――扶養から出るか出ないかも「自分で決める」ことが大事

扶養の範囲内で働くこと、扶養外で働くことは出産や育児などのライフイベントがある世代にとっては非常に大きな選択になります。
いずれの場合においてもご自身が将来悔いのない選択をなされますよう、是非配偶者の方ともライフプランをじっくりお話になって頂ければと思います。
そして是非、ご自分が納得のいく選択肢を選ばれますよう、こうした制度上のメリットデメリットもご参考いただければ幸いです。