アスペルガー症候群

こんにちは。社会保険労務士、キャリアコンサルタントの村井真子と申します。

皆様はアスペルガー症候群という障碍(障害)をご存じですか?

今回は、アスペルガー症候群をお持ちの方が就労するためにどのような支障があるのか、またはそのような障碍をお持ちの方が同僚・部下にいた場合にどのように対処すればいいのか、労務管理の観点からお伝えいたします。

1)アスペルガー症候群(ASD)とは?

アスペルガー症候群は発達障碍のひとつで、自閉症スペクトラム障碍のうち知能や言語の遅れを伴わないものを指します。

具体的な症状としては下記のようなものがあげられます。

  • 共感性に乏しく、本人の意図しないところで相手を怒らせてしまう
  • 身振り手振りなど、ノンバーバルコミュニケーションから情報を伝達・読み取れない
  • 自分なりのやり方やルールがあり、ルーティンが崩れると不安・怒りを感じる
  • 暑さ/寒さなど、刺激に対する感覚が鋭敏なことが多い

このように顕著な特徴が社会性やコミュニケ―ションの問題として現れるため、周囲から変わり者として扱われてしまうことも多いようです。

この障碍は脳の機能の障碍に起因するものと考えられており、身体の障碍と同様に本人が治そうとして治るものではありません。ですから、ご本人が障碍を意識して改善しようとしてもうまくいかず、周囲からの理解も得られずに、うつ病などのメンタル不全を二次障碍として負ってしまう方も多くおられます。

※参考:ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について

2)アスペルガー症候群の方が働くうえで課題となること

アスペルガー症候群の症状の出方は人によって様々ではありますが、筆者がよくご相談を受けるのは例えば下記のようなケースです。

  • Aさんはソフトウェア開発の仕事を担当している。開発の仕事はできるのだが、それに関連する事務連絡や納期の管理、関連部署との調整ができずに困っている。何度連絡しても予定を忘れてしまったり、大事な情報が伝わ割らないことも多い。
  • Bさんは製造業のラインで働いているが、言われた通りのことしかできず、上司が少しでも以前と違う指示をすると混乱してパニックになってしまう。本来なら複数の工程を任せたいし、本人もスキルアップを望んでいるが、現状では難しい。
  • Cさんは異動後、肌が痛くて働けない、労災だと訴えるようになった。異動した先の職務内容は問題なくこなせているが、エアコンの位置が悪く本人にとっては耐えがたい痛みであるとのこと。席替えをしたが、今後はどのようなことに気を付ければいいのか。

これらのケースからもわかるように、アスペルガー症候群の方は仕事ができないわけではありません。しかし、就労にあたって障碍に起因する問題を抱えている場合はとても多いのです。前述したとおり、アスペルガー症候群は本人が意識すれば「治る」という障碍ではありませんので、就労先の企業はそのあたりのことをしっかりと踏まえたうえで、適切な労務管理を講じる必要があります。

3)アスペルガー症候群かも?と思われる方の労務管理上の問題と対策

アスペルガー症候群の方は、先ほどの具体例でも触れたように様々な就労上の問題を抱えていることがあります。その中で特に企業が注意しなければならないのは下記のような場合への対策です。

・上司が障碍への理解がなく、本人が怠けているのだと決めつけて叱責してしまう
→パワーハラスメントに該当する可能性が高く、また本人の自尊感情を大きく傷つけてしまいます。本人自身に障碍がある自覚がない場合もありますので、その疑いのある部下に対しての声かけは十分な注意が必要です。

・会社で運用しているシステムや慣例と本人の相性が悪い
→大きな問題がないのであれば、本人が管理しやすい、使いやすいシステムを試してみると劇的に状況が変わることがあります。例えば、連絡事項は重要な伝達事項はメールや電話だけで終わらせず、必ず紙に書いて渡すようにしただけで締切の時間が守れるようになったなどの事例があります。

・特定の状況での急な体調悪化、パニックなどの症状がある
→どのような状況下でそのような変化が起こるのかを本人から聞き取り、対応するだけで改 善される場合があります。アスペルガー症候群の方には日光・温度・湿度・音量・気圧などに対する感覚が定型発達の方と異なる場合がありますので、その場合には感覚過敏や感 覚鈍麻の原因となる要素を取り除くだけで就労環境が改善されることも多く見られます。

4)アスペルガー症候群の方がお仕事をするうえで大切なこと

「大人のアスペルガー症候群」という言葉が知られるなど、当事者の方の努力もありアスペルガー症候群は近年だんだんに知られてきた障碍です。しかし、彼ら彼女たちが実際に働くうえで問題となりうることへのQ&Aはいまだ未整備で、知見を持った専門家もまだまだ少ないのが現状です。

ご本人が働きやすい仕事を選ぶことができる力を持つことも大切ですが、企業も私たち一人一人も障碍について正しい知識を学び、就労する上での困難を取り除くサポートをしていくことも大切なのではないでしょうか。

そのような方でも働きやすい環境は、つまり私たち一人一人が働きやすい環境でもあります。そのような企業が一社でも増えるために、できることから始めてみませんか?