こんにちは。キャリコン社労士の村井真子です。
今回は2022年の育児介護休業法改正によって創設された「産後パパ育休」の制度について詳しくご説明いたします。
1)産後パパ育休って?
産後パパ育休制度とは、2022年の育児介護休業法の改正によって創設された休業制度で、自分の子の出生後8週間以内に取得することができる休業のことです。条文上は出生時育児休業が正式名称ですが、産後パパ育休、男性版産休などの名称でも呼ばれる制度です。
この休業は2022年10月1日から利用することができるようになります。
女性は労働基準法により出産予定日前6週間(多胎妊娠の場合は予定日前8週間)、出産後8週間の産前産後休業の取得が認められており、産後にそのまま育児休業に入る場合はこの8週間を経過する日の翌日が育児休業の取得日になる扱いになっています。
しかし、男性は出産がありませんので、育児休業の開始日は出産予定日または子が生まれた日から取得できるということになっています。
ここまでは従来と同じ扱いですが、今回の改正により、この産後の育児休業の取得促進を目的として今までの育児休業と取り扱いを変えたのです。
2)今までの育休制度で男性が取得するのと今回の産後パパ育休、何が違う?
今までの育児休業と異なる点は下記表のとおりです。オレンジ色の部分が今回の改正で変わったところ、新設されたところになります。
産後パパ育休 (2022.10.01~) |
育休制度 (2022.10.01~) |
現在の育児休業 (現行制度) |
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取得期間 | 子の出生後8週間以内 | 原則子が1歳 (最大2歳まで) |
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取得可能日数 | 最大4週間まで | ||
申出期限 | 原則休業の2週間前まで | 原則1カ月前まで | |
分割取得 | 分割して2回取得可能 (初めにまとめて申出必要) |
分割して2回取得可能 (取得の際にそれぞれ申出必要) |
原則分割不可 |
休業中 の就業 |
労使協定+労働者の合意で 休業中の就労可能 |
原則就業不可 | |
1歳以降 の延長 |
– | 育休開始日を柔軟化 | 育休開始日は1歳、 1歳半の時点に限定される |
1歳以降 の再取得 |
– | 特別な事業があれば再取得可能 | 再取得不可 |
厚生労働省リーフレット「育児・介護休業法改正ポイントのご案内」
このうち、特筆すべきなのは最大4週間まで取得可能であること、その4週間を2回に分割して取得することが可能であること、さらには産後パパ育休中には一定の就業が可能であるということでしょう。
厚生労働省の調査によると、男性が育児休業を希望したにもかかわらず取得できなかったと回答した期間は「妻の退院後、数日間」というタイミング。
妻の入院中(21.4%)や退院のタイミング(16.8%)に比べ、28.4%の方が取得を断念している状況があります。
また、妻の視点でもこの期間にパートナーに家にいてほしいと願っていながら実現していないのは、同じ退院後のタイミングについて「夫に育児休業の取得を希望したにもかかわらず取得できなかった」と回答されている方が26.0%いることで分かります。(出典「男性の育児休業取得促進等に関する参考資料集」)厚生労働省
このような現実を解消するために、今回の産後パパ育休制度では入院中のみならず退院後も取得ができるように分割して取得することができるようになったのです。
また、前述の資料によれば育休を取得しない理由として「会社で育児休業制度が整備されていなかったから」(23.4%)と回答した男性が最も多く「収入を減らしたくなかったから」(22.6%)、「職場が育児休業制度を取得しづらい雰囲気だったから」(21.8%)と続きます。
このうち、1位の「職場に制度が整備されていない」という課題については2022年4月の法改正により、自身ないし配偶者の妊娠出産を報告した労働者に対して、企業は個別に育休等の制度周知を行い、取得の意向確認をすることが義務付けられました。
また、今回の改正では、労使協定の締結と個別同意が必要にはなりますが、休業中にあらかじめ予定してあった仕事を行うことができるようになりました。
これにより、例えば休業期間中にテレワークを行ったり、会議に参加したりするために一時的に出社することが可能に。基本的には休業中の就労を認めない育児休業にくらべ、大きく取りやすさが緩和されました。
今までの育児休業ともっとも異なるのはこの点です。
子どもが産まれた直後は行政官公署への手続きなどで休みを取る必要がありますが、子どもと妻は入院中のため、夫は一緒に育児をする体験ができません。しかし、前述のとおり退院してしまうとなかなか休業しにくいという事情に配慮し、分割取得を可能にすることで退院後の家族のサポートと生活リズムを整える時間を作ることができるようになりました。
3)産後うつから大事な家族を守るために
実は、産後パパ育休の期間は、出産を終えた妻の産後うつの発症ピークの期間と重なります。
産後うつとは、マタニティブルーを経て出産後から半年ほどの期間に発症するうつ症状のことです。涙もろくなったり、日常の感情の起伏が乏しくなる、睡眠過多・不眠、食欲の減退や増加、疲れやすい、集中力が続かないなどの症状が見られます。これは経産婦の約1~2割に出現するもので、決して珍しいものではありません。多くは軽症ですが、重症化すれば自殺や母子心中、子どもの虐待に繋がるきわめて重視すべきものなのです。
(出典「妊産婦メンタルヘルスケアマニュアル」公益社団法人日本産婦人科医会)
様々な調査から産後うつは好発時期は産後 4 週以内と特定されていますが、この時期の経産婦は赤ちゃんのお世話に追われ、自分から助けを求めることが難しい時期でもあります。
したがって、この時期に夫が家にいて妻に気を配ることで、この産後うつの症状に気が付いたり、妻とともに育児の楽しさ、しんどさを分かち合うことで予防に繋げることが可能になります。
育児休業を取ることができる期間は一生のうちに何度も訪れるわけではありません。
会社の制度がないという男性の会社員の皆さまには是非ご自分でもこの制度について知っていただき、上司へ働き掛けていただければと思います。
また、経営者の皆さまにもこの法改正を是非御周知いただき、大事な社員やそのご家族のいのちを育む休業だということをご理解いただきたいと思います。