カスタマーハラスメントとは?

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは顧客等からの著しい迷惑行為のことです。この記事ではカスハラの定義と現状、企業がとるべき対策について社労士が解説します。

1)カスタマーハラスメントとは

カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)とは、顧客等からのクレーム・言動のうち下記3つに該当するものを指します。

  1. クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、
  2. 当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、
  3. 当該手段・様態により、労働者の就業環境が害されるもの
  4. カスタマーハラスメントとは

    社内で起こることの多いパワー・ハラスメントに比べ加害者が企業にとって顧客であるために、被害者がその被害を適切に認識したり対抗することが難しく、社会問題化しています。

    こうした状況を受け、カスハラ対策につき厚生労働省は指針を発表(参照:令和2年厚生労働省告示第5号|厚生労働省)。事業主に対し、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備や被害者への配慮のための取り組みを行うことを望ましいと規定しています。

    この規定は義務ではなく、事業主に対する法的拘束力はありません。しかし、カスハラの対象行為には暴行罪、脅迫罪、恐喝罪、名誉棄損罪など刑法に抵触するものもあります。また、カスハラの被害を訴える人は年々増加しており、事業主は労働者を守る観点でも対策が求められている分野です。

    2)カスタマ―ハラスメントの現状

    厚生労働省の調査では、ハラスメント行為を受けたとする人の割合はパワーハラスメント(以下パワハラ、48.2%)・セクシャルハラスメント(以下セクハラ、29.8%)についでカスハラと回答する人が19.5%に上ります。また、過去調査との比較では、パワハラ・セクハラは相談件数が減少しているのに対し、カスハラだけが件数増加の傾向にあります(参照:カスタマーハラスメント対策企業マニュアル|厚生労働省)。

    また、民間団体の調査では、直近3年間で自身が受けたことのあるカスハラとして下記のような結果が出ています(参照:カスタマー・ハラスメントに関する調査2022 |日本労働組合総連合会)。

    「暴言」55.3%
    「説教など、権威的な態度」46.7%
    「同じクレーム内容の執拗な繰り返し」32.4%
    「威嚇・脅迫」31.9%
    「勤務先への不当な苦情、投稿(アンケート・お客様の声など含む)」23.9%

    また、こうしたカスハラのきっかけは「勘違いや嫌がらせ」(47.4%)と「商品・サービス提供への不満」(40.4%)が特に高い傾向にあり、「商品・サービス提供のミス」(17.2%)、「制度上の不備」(16.3%)を引き離す結果になっています。企業側に落ち度がなくても、勘違いや不満から暴言などのカスハラに発展している様子が伺えます。

    さらに、こうしたカスハラの結果、生活上で生じた変化として「出勤が憂鬱になった」(38.2%)、2位「心身に不調をきたした」 (26.7%)などを挙げる人も多く、企業の対策が急がれます。

    3)カスタマーハラスメントの業界別傾向と事例

    ①スーパーマーケット業界

    社会階層が高く、自尊心が強く、完全主義的な傾向を持つ顧客から「社長を呼べ」などの無理な要求を受けることが多い。また、日常のストレスをスーパーマーケットの従業員に向けて発散するいいがかり的なクレームや大きな声で威嚇するような行為もある。 「担当者の態度が悪いから首にしろ」「謝罪文書を出せ」などの要求も見られる。(参照:スーパーマーケット業界におけるカスタマーハラスメントの実態及び対応事例について|一般社団法人 全国スーパーマーケット協会

    ②旅客運送業界

    迷惑行為の注意(23%)、泥酔者への注意(20%)などを契機とするほか、もっとも多いのは「理由なく突然に暴力行為を受けた(37%)という結果に。また、「駅係員への理不尽な言いがかり」や「列車遅延時の乗務員への言葉の圧力」なども見られ、鉄道各社では啓発ポスターでの啓蒙や警備員・防犯カメラの設置などで対策している(参照:鉄道業界におけるカスタマーハラスメントの実態および対策事例について|一般社団法人 日本民営鉄道協会)。

    ➂外食業界

    未オーダーの食べ放題を取ったことへの注意や食中毒被害の言いがかり、外国籍従業員に対する過剰なクレーム、決済方法が限られていることに対する不満や支払い時に金銭を投げるなどの行為、使用期限が切れているクーポンの利用要求、アルコールの提供時間に対する規制への文句など多岐にわたる事例が見られる(参照:顧客等からの著しい迷惑行為の防止対策の推進に係る関係省庁連携会議|UAゼンセン)。

    ④介護業界

    職員の4割から7割が利用者からのハラスメントを経験。たたく、蹴る、コップをなげつけるといった身体的暴力、気に入っているホームヘルパー以外に批判的な言動したり理不尽なサービスを要求するなど精神的暴力のほか、必要もなく手や腕をさわる、抱きしめるなどのセクハラ行為も見られる(参照:介護分野における取組事例について|厚生労働省)。

    カラーハラスメント_業界

    4)カスタマーハラスメントに対し取るべき対策

    カスハラは顧客からの改善提案の機会の表れとする企業もあり、一律に規定すべきものではありません。しかし、そのすべてを受け入れることが必ずしも必要ではないという観点から、企業は自社のカスハラ対策についてガイドラインを定め、経営者層と現場での目線を合わせておくことが必要です。

    ここでは、そのガイドライン策定に向け取るべきステップを紹介します。

    ①事業主のトップメッセージ発信と会社の取り組み姿勢の明示

    企業がカスハラを許さず、従業員を守る姿勢をはっきり示す。また、そのことを従業員にも周知し、全社一丸となってカスハラ対策を進める意志をもつ。

    ②カスハラ被害を受けた従業員の相談体制を整える

    パワハラなど他のハラスメント同様、被害を受けた従業員の相談窓口を設け、相談対応者を決める。相談者のプライバシーを守るなど、従業員が安心して相談できる環境を用意する。また、相談は現場の責任者が受けることも多いため、それを見越した研修等を実施する。

    ➂カスハラが発生した際、どのように対応するかのフローを策定する

    顧客への対応は複数人で対応する、一次対応者だけに任せきらないなど業種・業態により想定されるフローを策定しておく。また、警察への通報の判断基準なども盛りこみ、責任者不在の際の対応ができるよう備える。

    ④社内対応フローやルールを従業員へ周知する

    策定したルールやフローは全社で共有し、現場の従業員が適切に運用できるよう周知徹底する。カスハラでは初動対応を誤ることで顧客の感情が増幅することもあり、カスハラに備えた訓練なども実施しておくことが望ましい。

    カラーハラスメント_対策

    5)カスタマーハラスメント対策は企業にとって必須の課題

    カスハラは従業員の心身の健康を損なうほか、他の顧客に対する迷惑行為でもあり、さらに企業イメージを損ないかねない重大なリスクと言えます。企業は積極的にカスハラ対策をし、自社のステークホルダーを守っていく姿勢が求められています。