
豊橋市の農業者、農業関連企業と全国の有望な農業系スタートアップ企業をマッチングし、本市を実証フィールドとした農業課題の解決につながる新製品・サービス開発を目指す「TOYOHASHI AGRI MEETUP(豊橋アグリミートアップ)」が今年度も始まりました。
9月1日(月)にはマッチングプログラムが開催され、ゲストによる講演、先進事例の紹介、意見交換が行われました。本レポートでは、当日の様子をご紹介します。
【講演1】山梨一の生産量を誇る農業経営と未来への挑戦
最初の講師を務めたのは、アグベル株式会社 代表取締役の丸山桂佑氏です。山梨県で70年以上続くぶどう農家の三代目として生まれ、会社員としての経験を経て、2017年に家業を継承。独自の販売ルートや輸出事業をスタートさせ、2020年には「アグベル株式会社(以下、アグベル)」を設立しました。
同社は、農林水産大臣賞の受賞や輸出産地認定をはじめとする数々の実績を持ち、現在は山梨県のみならず、他県にも子会社を設立してぶどうの生産を展開しています。
事業継承から企業設立まで
もともとは家族経営として平均的な農地を事業継承する形で就農した丸山氏。従来の市場流通の仕組みに疑問を持ち、自ら価格決定権を持つための取り組みに力を注いできました。
まずは、全国の生産者と積極的に交流し流通構造を勉強し直すことで、現状の課題を多角的に把握。その上で、香港の日系スーパーへの飛び込み営業や、2019年からの直接輸出といったチャレンジを重ねてきました。
また、経営面では、点在する圃場ごとにPL(損益計算書)を作成し、自身の稼働時間まで細かくコスト計上することで、農業経営の「見える化」と効率化を推進。これにより、生産現場の状況を数値で管理し、経営判断の精度を高めていきました。
そして、2020年に「アグベル株式会社」の設立に至りました。
果樹農業の市場と構造的課題
果樹ブドウ生産の市場は、全国的にほとんどが家族経営。大規模な規模拡大が難しい背景として、木1本当たりの投資回収に約6年かかるという果樹ならではの特性があります。
また、農協や市場流通という「出せばお金に変わる」インフラがあることで、販売管理費の概念がなくなり、農業職人は育つがビジネスマンが育たない環境も問題として指摘。
さらに高齢化が進み、人手不足はもちろん新たな農業形態への挑戦に対して否定的な意見も多いことも課題としてあげられていました。
アグベル株式会社の特徴
アグベルの特徴として、丸山氏は「生産が農業のすべて」という信念を掲げています。耕作放棄地を再生してブドウ畑に転換する際には、抜根から自社ですべて行うことで、地域からの信頼を勝ち取り、事業拡大を支えています。
また、選果場を運営することで、今まで細かく分断されていたバリューチェーンを垂直統合し、ワンストップで対応できる流通体制の構築を目指しています。市場を経由せずに直接販売することで、パッケージデザインや品質管理も自社で行うことが可能となっています。
加えて、自社アプリケーションによる生産管理やAI画像解析を活用した選果の研究、社内コミュニケーションや労務管理など農業経営のDX化を進めています。
自分たちが目指していく農業とは?
丸山氏は、事業が拡大していく中で、人材の入れ替わりが多かったことから、会社のパーパスやバリューを言語化し、社員全員が共有できるようにすることの重要性を強く感じました。そこで、アグベルでは「農業を愛すること」や「自ら正常な機械を作り出す」といった6つのバリューを定めました。また、パーパスとして「日本の農業をアップデートし、当たり前の幸せを取り戻す」という理念を掲げることで、組織としての一体感を高めることを目指しています。
加えて、丸山氏は小学6年生の時の作文を紹介し、家族が農業を強制せず、自然と農業に興味を持てる環境で育ったことが現在の前向きな農業への姿勢につながっていると語りました。
最後に、国内にはメジャーなフルーツブランドが確立されていないという点を指摘。最終的な目標として「ブドウといえばアグベル」と言われるようなグローバルメジャー企業になることを掲げています。
質疑応答
質疑応答では、短期間での事業拡大に対する驚きの声が上がる一方で、土地の貸借や継承の難しさについても質問が寄せられました。
これに対し、土地の確保については、耕作放棄地の再生や、引退する農家からの継承が主な方法であると説明。
また、「なぜ海外のスーパーマーケットにはバイヤーを通さず、直接営業を行ったのか」という質問に対しては、「決裁権を持つ担当者に近いところへ直接提案した方が交渉がスムーズに進むため」と理由を述べました。さらに、こうした直接営業の後に、バイヤーや国内商社が取引に加わるケースもあることを補足しています。
【講演2】最新の国内の農業系スタートアップを知る~アグリテック数十社の最新製品・サービスをご紹介~
講師はデロイトトーマツベンチャーサポート株式会社 ビジネスプロデュース事業部 マネージャー 青砥 優太郎 氏。茨城県で約200年続く林農家の出身で、大学卒業後、東証一部上場の情報通信企業で営業・投資・企画部門を経て、子会社取締役に就任。新規事業の立ち上げやベンチャー協業を推進しながら農業関連事業にも携わり、現在は大手企業の成長戦略支援や新規事業創出を担当されています。
青砥氏からは、約30社のアグリテック企業のサービスが紹介され、参加者は興味をもったサービスを選び、その理由を記入するワークショップを行いました。
紹介されたサービスの中には、現在豊橋市内で実証実験が進められているアグリテックもあり、参加者の皆さんはどのサービスにも熱心に耳を傾けていました。
また、講演の中では、前段の講演に登壇した丸山氏とのディスカッションが行われ、経営支援サービスと自動収穫ロボットについて意見が交わされました。
丸山氏は自動収穫ロボットに関する考えとして、「利益を生み出せる生産分野を最優先する」との方針のもと、人件費削減を目的としたロボット導入に注力。しかし、海外の農場を視察した経験から、すべての作業をロボットだけで完結させることは現実的ではないと考え方が変化。生産者とロボットが協力し、1人あたりの管理面積をいかに拡大できるかが今後の課題であると述べました。
丸山氏は加えて、年間10回以上のスタートアップとの商談を行っており、サービスをそのまま受け入れるのではなく、自社に本当に適しているかを慎重に見極めることの重要性を強調しました。
続けて、参加者は講演会を踏まえ、自身が選んだサービスとその理由についてグループ内で共有するワークショップを行いました。
今回の参加者は、「壊れにくく長期間使用できるデジタル土壌水分計」や「保水に関する課題解決」といった、水まわりに関する課題について、活発に議論がなされました。
青砥氏は、スタートアップ企業との協業において「完璧な技術を求めるのではなく、一緒に育てていく姿勢が重要である」と強調し、参加者に対して前向きな協力を呼びかけました。
【TOYOHASHI AGRI MEETUPコンテスト応募受付中】
豊橋市では、賞金総額1,000万円!「TOYOHASHI AGRI MEETUP アグリテックコンテスト」 の応募を 10月20日(月)17:00まで受け付けています。
下記フォームよりぜひご応募ください。
https://forms.office.com/e/RiBHwpfKX7
9月24日(水)に開催した「応募検討者向けオンライン説明会」のアーカイブ動画はこちらからご覧いただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=r0t6gkv4sWE